口から吹き出した霧状の水を浴びると子宝に恵まれると信じられていた。
神輿に乗って神がかるハワ。お告げは政治的に危険な香りを漂わせていた。
レコン(青海省同仁県)の並み居るハワ(シャーマン)のなかで、もっともインパクトが強かったのは、ロンジャ村の老ハワ、シャウ・ツェランである。刀で額を切るなんていうのはありきたりの部類で、調子に乗ったときなど、腹にグサッと刀を刺して、血を流すことさえあるのだ。羊を殺して、その心臓をつかみ出すこともある。竜女(アマ・ルモ)が憑いたときは、口に水を含み、村の女たちに向かってスプリンクラーのごとく吹きかける。霧状の水がからだにかかると、子宝に恵まれる(妊娠する)と信じられているので、だれもが身を乗り出して水を浴びようとする(自分にもかかったが、最近おなかが出てきたのはそのせい?)。
シャウ・ツェランのお告げがとても変わっている。六月会もフィナーレが近づき、村の男たちが踊り狂いながら会場の空き地になだれ込むと、突然、ハワは神輿の上にのり、神アンニ・ハラが憑かるや、託宣をはじめるのだ。日本のように頑丈ではなく、やわな神輿である。頭をガクッと落とし、甲高い声で、通訳なしでしゃべりはじめる。この日の内容は遠まわしながらも過激で、村人のあいだに「おおっ」という驚きの声があがった。
「ロンジャ三百家よ、よく聞け。(ハワをつとめた)四十数年のあいだによくわかった。共産党の言うことは受け入れたほうがいい。過激な人は刑務所に入れられてしまうだろう。暴れ馬の脚が結ばれるように。皇帝(政府のこと)の命令は守ったほうがいい」。