レコン(青海省同仁県)にはキングコングのように胸を叩いてお告げをするハワ(シャーマン)がいる、と前回書いたが、それはサフチ村のタンゼンブムのことである。憑依状態のとき、もどかしげに胸を叩くと、傍らの通訳が意を汲み取って「神意」を告げる。
サフチ村のハワにはシャチョン(霊鳥ガルーダの意)が降りるので、とても重要なハワだとみなされている。彼の父親もハワだったが、亡くなり、数年間村にハワがいなかった。そのため長老らが臨時の会合を開き、村中の若者全員を祠堂に集めて新ハワを探し出すことにした。何十人もの若者が狭いお堂に十日以上閉じ込められた。しだいに脱落者が増え、最後に残ったのは神がかった四人だった。彼らは隣接するチベット仏教寺院ロンウー寺の活仏の前に連れてこられた。活仏は四人のうち二人に対し「魔物が憑いておる」とか言って、追い返してしまう。残る二人には「仏法を守る護法神である」と認定し、聖なる赤い紐を賜い、祝福を与える。しかし数ヵ月後、新ハワ二人のうちのひとりは、乗っていた車が崖から転落し、若くして死亡してしまう(事件性はないと思うが……)。こうしてタンゼンブムは村で唯一のハワとなり、現在に至っているのだ。
はじめて訪れたハワの家がタンゼンブムの家だったので、私にとって彼は忘れがたい存在となった。正月のように家族親戚が一堂に会し賑わう六月会の期間中、彼の家を訪ねると、宿泊しているホテルの美人受付嬢が出迎えてくれたので、一瞬どうしたことかととまどったが、じつは彼の奥さんだった。漢族・年上・バツイチ・子連れ、と反対される理由は多々あるものの、愛情で打ち勝ったのである。聞くところによると、町のディスコで彼が彼女をナンパしたのだという。シャーマンらしく、トリップして、エクスタシーに浸った表情でナンパしたのだろうかと想像すると、可笑しくてたまらなかった。