第1章
1(b)
われらの大地は傷ついている。
海や湖は病んでいる。
川は流れる古傷のようだ。
大気は希少な毒に満ちている。
地獄の業火の脂じみた煙によって太陽は煤黒い。
日は夜になる。
魚は畸形に生まれる。
鳥は命を失くし落下する。
森や平野は萎えていく。
動物は隠れ家と食べ物を探してむなしく走り回り、倒れ、死ぬ。
郷里や家族、友人から追い散らされた男ども、女どもは、絶望し、不安にさいなまれ、
空虚な渇望や奇妙な病気、突然死に身を捧げ、
有毒な太陽に焼かれながら、さまよい歩く。
夜は一息つける月明かりの冷却期間ではなく、
むしろセイレーンと叫喚と殺人的幻影の「恐怖の炎」の明かりがついた空虚である。
このおびえた、何も見えない不確かさの砂漠において、
ある人々は力や知識、技術を追い求めることにやすらぎを感じる。
ある人々は幻覚と欺瞞を操る者となる。
ある人々は自己満足の情熱の世界に逃げ込む。
ある人々は富のまわりに黄金の壁を築く。
人々は希望や恐怖というロボットやゾンビ、すなわち無慈悲な悪魔の神々を創り出す。
眠りの際でちらつく影のように、善良さと勇敢さがこの世界にまだあるなら、
開かれていない本の失われた夢のように、知恵と調和がこの世界にまだあるなら、
それらはわれわれの心臓の鼓動のなかに隠れているだろう。
そしてわれわれの叫びは心臓から発せられる。
われわれは叫ぶ。われわれの声はこの傷ついた地球のひとつの声である。
われわれの叫びは地球を貫く大きな風である。
杜松(ねず)の煙がこの風に乗って昇っていく。
そしてわれわれは歌う。
風のなかではためく旗や幟に囲まれ、
この渇望の橋の上を降りてくる不老の獅子王ケサルを迎えるために。
ケサルは武器を鋳造するだろう。
その武器で、「生命の力」から恐怖と猜疑を断ち切り、悪魔の大軍を制圧し、
滅ぼし、永遠にみなの心のなかに
自由、確信、歓喜が安住する王国を建設するのである。