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 貴族、偉大なる淑女、戦士、リンの庶民は静かにそこを離れて、セチャン・ドゥクモやキャンゴ・カルカル、数人の従者だけを残して、各自の家に戻っていった。リンの家来たちの静かな隊商は、谷を隔てた向こうの丘の頂に達したところで立ち止まった。谷のこちら側にはケサルと従者たちが坐っていた。隊商の人々は、遠くに見える国王の姿を脳裏に焼き付けた。それはあたかも遠い山の頂近くの稜線に輝く、沈みゆく太陽の最後の光線のようだった。全員の感情を代弁して、感謝と別れをこめて歌ったのは、トドンの息子だった。

 

傷ついた心は 

完成を求めたことによって傷ついたものだった。 

会ったり別れたりという落ち着きのない夢は 

「ア」字の水晶の光、 

すなわちリクパ(叡智)の分かつことのできない明澄さを探しながら

いま自ら修復された。 

傷ついた心は 

切られながらも、存在をまっとうすることを求め 

時間の渦巻き状のかみそりのなかで 

「ア」字の水晶の光の生、 

すなわち偉大なる東の太陽の継ぎ目のない連続性の中で 

自発的に回復した。 

傷ついた心は 

揺れて、見つめることから目がくらみ 

見慣れない投影された鏡の中で 

「ア」字の水晶の光の生 

すなわち宇宙の分けられない単純さに憩うことによって 

自分自身と呼べるものと分割されない世界のため 

心は自発的に回復した。

持続的な当惑のうずく痛みから 

めくるめく海で身を任せ 

「ア」字の水晶光の無限の質によって 

自発的に回復した。 

無知は心の根本ではないので 

そして教師が教えることはなく 

生徒がそれを学ぶわけでもないので 

不機嫌で苦い疑いという傷は 

ケサルの祝福の生き生きとした現実感のなかで 

すなわち「ア」字の水晶光の完全な行動によって 

自発的に回復した。

心はそれ自身の上で休むので 

輝く全知の自己存在の光である。 

生と死の痛々しい幻覚のなかにあって 

ケサルは減らすことも失敗することも許されない。 

そこでははじまりも終わりもおなじである。 

 

トドンの息子がこの歌をうたったので、リンの人々は「循環のあらわれの完成」という荘厳な踊りを踊った。この歌と踊りが完了すると、人々は家路についた。

 翌朝の日の出の頃、ケサルと従者たちは白い山の正面の大きな洞窟に行った。そこから川や谷がつらなる風景が見えた。その向こうは、雪を冠った山また山の連続だった。

 この洞窟はかつてパドマサンバヴァが瞑想修行した場所だった。黒い岩壁ぼ後ろには、絶対的なアシェの印があった。夕方までには、彼らはここに落ち着いた。