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夜が落ち、輝く満月が明瞭な黒い空に昇った。その光によってまわりの世界は明るくなったが、それでもなお神秘的で心に訴えるものがあった。愛馬キャンゴ・カルカルが扉の横に静かに立っていた。ほかの人たちは洞窟の中央に輪になって坐っていた。ケサルの重々しいが、すっきりとした声が響いた。
われわれの事業は完成した。
これらの身体を永続させる必要もないだろう。
確信と覚醒の真実は、存在の見せかけに拠っているのではない。
そして非存在の幻覚に脅されているわけではない。
よく言われるように身体は貸し出されている物体である。
そしていまその成分がその本性に戻される時が来た。
土をこの世界の山と平原に戻そう。
水を川、湖、海に戻そう。
熱をかまどの炎やキャンプの火に戻そう。
風を空の大気に戻そう。
赤と白の元素を
太陽と月の祝福として
アヴァドゥーティ(神秘)の純粋な空に戻そう。
このようにわれわれの存在は
愛において偏らず
輝きにいて曲げず
この世界に住むすべての人を
祝福し、導き、守る。
この誓いによって
ケサルと心の仲間たちは
夜の間中、じっと座る。
暁の最初の光線が光の矢のごとく遠い山なみに射したとき
確信の大きな吼え声で
彼らは戦士の言葉を発した。
白い山の正面の洞窟内には
からっぽの衣服とわずかな虹の痕跡だけが残った。
夜が完全にあけると、
リンの王国には大きな虹が架かっていた。
このあざやかな虹の上には、太陽と月が同時に輝いていた。
星々もまた風の吹く暁のピンク色の空にきらめいていた。
三日間、空はそのまま動かなかった。