ケサル王物語要約
宮本神酒男編訳
第1巻 天界卜占九蔵 (lha gling gab
rtse dgu skor)
地上の人間世界には妖魔や悪霊が横行し、善良な人々がだまされたり、殺されたりした。部落の間で戦争が勃発し、人々は落ち着いて暮らすことができなくなった。天上の天神たちはこの様子を見ていたたまれなくなり、集会を開いて話し合い、天神(梵天)の幼子トンドゥプを地上に派遣し、暴力や略奪を一掃し、妖魔を制圧し、善良な人々を救出させることを決定した。
はじめトンドゥプは、下界に降りたくなかったので、姿を隠した。九度身を隠したが、九度見つかった。ついに彼は同意し、人間世界に降り立った。これがのちのケサル(幼少期はジョル)である。
トンドゥプの人間の母を探すために、パドマサンバヴァは治すことのできる病気を竜の世界にはやらせた。病気を治すかわりに要求したのが、竜王の三女だった。パドマサンバヴァは彼女をゴク部落の首領トンパ・ギェルツェンの妻とした。
デルゲ印経院版本では、観音菩薩が民衆の苦しむさまを見てあわれに思い、慈悲の心でアミターバ(阿弥陀仏)に天神の子を地上に送り、仏教を振興させるよう求めている。あきらかに仏教的色彩の濃いバージョンである。
第2巻 英雄誕生 (’khrungs gling me tog ra ba)
ゴク部落はリン国総監王ロンツァ・タゲンの子どもを殺した。リン国は兵を起こし、報復の戦いを仕掛ける。ゴク部落は完敗し、首領は逃走する。首領の妻であり、竜王の三女であるゴクモはリン国の兵士に連れ去られ、センロンの妻となった。センロンとゴクモは人間世界におけるケサルの両親である。
ゴクモがケサルを孕んだとき、第三妃であるナクティメン(Nag thig dman)は、生まれてくる子どもが男の子であったら自分にとって不利益だと考えた。そこでセンロンの弟トトンと結託し、陰謀をくわだて、センロンにゴクモを追放させるように仕向けた。ゴクモは郊外の荒野の破れたボロボロのテントのなかでケサルを生む。
第3章 13の逸話
センロンはもともとリン国の首領だった。トトンは権力を奪い取り、あらゆる手を使ってケサル母子を迫害した。ケサルが生まれたとき、トトンは穴を掘り、赤ん坊のケサルを土の中に埋めた。しかし神通力でもってケサルは穴から脱出することができた。トトンはまたラマに呪文を念じさせケサルに害を与えようとしたが、ケサルは呪術の戦いに勝利をおさめた。トトンはケサルに13度の迫害を加えたが、みな逆にこらしめられる結果となった。ケサル母子は人参果を掘り、地ネズミをとらえ、ときには乞食のようなことをして、貧苦の生活を送った。
のちにふたりはマチュ(黄河上流)に達すると、この地方は牧草が青々と茂る土地になり、ヤクや羊がすくすくとたくましく育っていった。ケサルはマチュ地方の主人となった。
第4巻 競馬称王 (rta rgyug rgyal ’jog)
叔父のトトンから迫害を受ける中、極貧生活を送りながらもケサルは成長した。15歳のとき、リン国の国を挙げて大きな競馬大会が開かれた。この競馬大会でケサルは優勝する。リン国の規定により、ケサルは国王に即位し、国でもっとも美しい娘ドゥクモを妻とした。
あるバージョンでは、貧困時代にドゥクモはケサルの許嫁だったが、両親から反対された。それでもドゥクモの心は揺るがなかった。
第5巻 魔国を制圧する (bdud ’dul)
北の魔王ルツェンは民衆を殺していたが、とくに男女の子どもをよく食べていた。あるとき、ケサルが「閉じこもりの修行」を実践している最中に、二番目の愛妃メサ・ブムキがさらわれてしまった。ケサルはメサを救い、魔王を除去するために魔国へと向かった。
ケサルはまず魔工の辺境を守っていた大臣を倒し、それから魔王の妹を制圧し、最後にメサとの関係を取り戻すと、魔王ルツェンを弓矢で射て殺した。
しかしメサが酒の中に魂迷薬を入れると、それを飲んだケサルは国のことも王妃ドゥクモのことも忘れ、悦楽におぼれてしまい、それから9年間も魔国に滞在することになってしまった。
第6巻 ホルとリンの戦い (hor gling gyul ’gyed)
上巻「ホル侵攻」と下巻「ホル征服」に分かれる。
「ホル侵攻」
ホル国にはクルセル王(黄テント王)、クルカル王(白テント王)、クルナク王(黒テント王)の3人の王がいた。このなかでもっとも力を持っていたのはクルセル王だった。彼は21歳のとき、妻を娶りたいと思い、白鳩、まだら色のカササギ、赤い嘴のワタリガラス、黒のカラスを四方に派遣し、美女探しをさせた。
しかし鳩やカササギ、ワタリガラスらは悪事をたすけるような気がしたので、そのまま家に帰ってしまった。美女を探しの旅に出たのはカラスだけだった。
探し回ってやっと見つけた一番の美女はドゥクモだった。その知らせを聞いたクルセル王は大喜びだった。またケサル王が北の魔国に遠征したまま戻ってきていないことを知り、リン国に侵攻し、ドゥクモを奪うならいまがチャンスだと考えた。
ホル軍の侵攻を受けて、リン国の英雄(将軍)たちや民衆は、総監王タゲンとケサルの異母兄ギャツァ・シェカルの指揮のもと、ホル軍の攻撃にたいし必死に抵抗した。相当の血は流れたが、リン国はなんとか勝利をおさめることができた。一方のホル軍は多くの兵士を失い、ほうほうのていで国に戻った。
しかしここで国を裏切ったのはケサルの叔父トトンだった。ホル国王と通じ、内応し、そのことによって、ケサルの親友でもあった義兄のギャツァ・シェカルの惨殺がもたらされた。ドゥクモは英雄らとともに奮闘したが、最後には捕らわれの身となる。ドゥクモはそれでも引き延ばし作戦などの計略で抵抗し、同時に白い鶴やまだら色のカササギ、赤いキツネなどを魔国に派遣し、早く帰国してリン国を助けるよう要請しようとした。
しかしその頃ケサルはメサの計略にはまって骨抜きの状態になっていたため、救援に戻ることはできなかった。こうしてドゥクモやリン国の兵士、民衆、宝物はすべてホル国軍に奪われることになってしまった。
「ホル征服」
ドゥクモがホルに連れ去られて以降、トトンがリン国の王となった。ケサルの父センロンは平民に「格下げ」され、おもに牛や羊の放牧をさせられた。その頃ようやくケサルはメサに飲まされていた魂迷薬の影響から脱却し、リン国の現状を知ることができた。ケサルはただちに帰国の途についた。
リン国に戻ったところで、ケサルは牧場で放牧をしている父親と会い、トトンの最近の動きについて教えてもらった。ケサルはトトンをとらえ、懲罰を与える。
そしてホル国へ向かい、乞食の青年に変身する。ケサルはホル国の親王でもある鍛冶師ガルワ・ウナの家に逗留し、製鉄を手伝った。またこの家の娘チューツン・イェシェとは相思相愛の関係になった。
チューツン・イェシェに助けられて、ケサルは王宮の中のクルセル王の様子を探り、ドゥクモとの関係についても調べた。
ケサルは魔術師とサルに変身し、王宮に入って大道芸を披露した。ホルの将軍や兵士らの注意をそうやって引き止め、夜中にケサルはポールをよじのぼって王宮に侵入し、クルセル王を殺し、ドゥクモを救出した。
*ケサルと戦うホル王は、多くはクルセル王(黄テント王)ではなく、クルカル王(白テント王)である。通常、ホル国自体が「黄色いホル」と呼ばれる。なおホル王とドゥクモとの間にはひとり、ないしは二人の子どもが生まれている。ケサルはその子を悪魔の血を継ぐ者として、殺してしまう。ケサルには13人の王妃がいるが(実際にはもっとたくさんいる)子どもがいないので、のちにこの子が後継者を主張する可能性があると考えたのだろう。
第7章 リンとジャン国の戦い (’jang gling)
ジャン国軍がリン国の塩湖を略奪し、ケサルのリン国軍は反撃に出た。ジャン国のサタム王は手ごわく、ケサルといえども容易に勝てる相手ではなかった。ケサルはまずジャン国の王子ユラトギュルを捕らえる。のちにケサルは魚に変身し、サタム王が湖で泳いでいる時、口から体内に入った。おなかの中でケサルは千の輻(や)がある車輪に変身し、サタム王を降伏させた。
別のバージョンでは、リンとジャンが戦っているとき、サタム王が静かに坐っている機会に乗じて王の妻や馬、護衛の兵士らを死にいたらしめる。サタム王は怒って湖に飛び入り、体を洗って清め、水を飲んでケサルとの戦いに備えた。そのときケサルは小さな虫に変身し、ケサルのおなかの中に入ってキリキリと痛めながら歌をうたった。
サタム王は痛みのあまり飛び跳ねるが、我慢がならず、ケサルを取り出そうとして自分のおなかを刀で切ってしまう。こうしてサタム王は腹を切って死んでしまったのである。
第8巻 リンとモンの戦い (mon gling g-yul ’gyed)
過去にモンはリン国に侵攻し、宝物を略奪し、英雄(将軍)を殺害したことがあった。リン国は報復を誓ったが、その機会はなかなか訪れなかった。のちにトトンは、モン国王シェンティの娘がたいへんな美人であると聞き、自分の妻にしたいと考えた。しかしシェンティ王は拒否し、両国の間に戦闘が勃発する。
トトンはシェンティ王に勝つことができず、ケサルに助けを求める。シェンティ王は戦争に負け、雲に乗って空高く舞って逃げようとするが、ケサルに討ち取られてしまう。
第9章 タジク財国 (stag gjig nor ’gyed)
トトンはタジク(タクシク)国王が、大鵬の卵から生まれた、飛ぶ能力に長けた宝馬を所有していると聞き、人をやってその馬を盗ませた。タジク国王はそのことを知り、兵を出してトトンを攻めた。そしてトトンを捕らえ、馬を盗んだ者を殺した。トトンの息子は大国タジクの兵力には歯が立たないと考え、ケサルに援護を求めた。
ケサルは彼の求めに応じて出兵し、タジクを大破した。ケサルはタジク国のヤクを奪い、リン国の国民に平等に分け与えた。このとき以来、チベット人地区にはヤクがいるのである。
第10章 カチェ・トルコ石国 (kha che g-yu rdzong)
カチェ国のチタン王はネパールやゴルカなど周辺の小国を征服し、おごり高ぶって自分は天下無敵だと主張した。しかしのちにケサルというだれにも負けない勇敢で善良な王がいると聞き、チタン王は承服しがたいと思った。王妃や大臣の諫言にもかかわらず、王はケサルと雌雄を決したいと考え、リン国への出征を決めた。
ケサルは兵を組織し、一戦のみでカチェ軍を破り、自らの手でチタン王を殺した。ケサルはカチェ国のトルコ石などの宝物が収められた宝庫をあけ、それらを持ち帰って国民に平等に分けた。
第11章 シャンシュン真珠国 (zhang zhung mu tig rdzong)
トトンは、シャンシュン国王ルンドゥプ・ダクパの貿易によって得た宝物を略奪した。それに対抗し、シャンシュン国王は人をやってトトンの家畜や宝物を略奪させた。これにより戦争が勃発した。トトンはルンドゥプ・ダクパ王に捕らえられ、リン国軍の実情を暴露したため、リン軍は悪戦苦闘する。
最終的にケサル率いるリン国軍は真珠城に攻め入り、神矢を用いてケサルはシャンシュン国王を殺した。真珠をはじめとする宝物はリン国の国民に平等に分配された。
第12章 モンゴル馬国 (sog po rta rdzong)
「上モンゴル馬国」
上モンゴル馬国の王子は自ら武芸にすぐれ、国も強大であることを誇りにした。大臣らと協議し、リン国を攻めて有名なケサル王とどちらが秀でているか決着をつけたいと考えた。父の国王はやめるよう忠告したが、みな聞かず、王子と兵士らはリン国に侵入した。ケサルはそのことを知って、北の魔国、ホル国、ジャン国、モン・ユルから兵を集めて軍を作り、上モンゴル馬国と戦った。その結果、王子は戦死し、父国王は投降した。ケサルは何万頭もの馬を連れて戻り、国民に分配した。
「下モンゴル鎧・玉国」
ケサルは上モンゴル馬国を征服してから、勢いに乗じて下モンゴル鎧・玉国に攻め入った。鎧兜城を滅ぼし、英雄たち(将軍たち)は鎧兜を手に入れることができた。また碧玉城を滅ぼし、リン国の婦女らに碧玉は贈られた。
別のバージョンでは、下モンゴル国王チツェンがリン国を侵略し、ケサルは必死に抗戦する。戦闘のさなか、チツェン王は鷹や蟻に変身する。ケサルもさまざまなものに変身して追いかける。最後にリン軍の(ジャン出身の)ユラ・トクギュルがチツェンを射止め、6つに切って、死に至らしめた。
第13巻 トゥク兵器国 (gru gu go rdzong)
上巻(二部)、中巻(二部)、下巻の計5部から成る。トゥク国のトクポ王はボン教を信仰し、仏教には反対の立場をとった。改宗を拒んで兵を起こし、チベット(中央部)、ンガリ、ラダック、そしてカム地方に侵入した。ケサルはすでに征服していたホル、ジャン、モン、上下モンゴル、リユル(ホータン)、シャンシュンから、また自国(リン国)から徴兵し、トゥク軍を迎え撃った。何度か激しい戦闘を交えたが、最後にはケサル率いる統合部隊が勝利を収めた。そして武器宝庫を開き、仏教信仰のために用いた。
第14巻 スムパ・リン大戦 (sum pa mdzo rdzong)
スムパ国はゾ牛(牛とヤクの中間種)を発展させたことで知られる。ケサル率いる軍は、ギャマ・ギェルツェン国王率いるスムパを破り、ゾ牛を奪った。以後リン国はゾ牛を所有することになった。
第15巻 ジェリ珊瑚国 (bye ri’i byur rdzong)
以前、リン国の(ケサルの叔父)トトンは珊瑚国の村を襲撃したことがあった。のちに珊瑚国は、(ケサルの父)センロンの亡魂を送るためにリン国から中央チベットにやってきた人を殺した。こうして珊瑚国とリン国は互いに恨みを持つ関係になった。
リン国軍は珊瑚国に侵攻した。その途中でアタク部落の妨害に遭った。アタクとは3年も戦い、チベットの王の調停で和解し、珊瑚国にようやく到達した。リンは珊瑚国を破り、国王ダクツェ・ギェルポを殺した。そして珊瑚城の宝庫を開き、宝を功のあった将軍や平民に分け与えた。
第16巻 雪山水晶国 (gangs ri shel rdzong)
リン国の軍隊はラダック雪山水晶国の2つの部落を占拠した。ラダックの国王ションヌ・ガワは、一度は失地を奪還したが、ふたたびリン軍の攻撃を受けた。その結果、雪山水晶国は敗れ、国王はケサルに刀で斬られて死んだ。
第17巻 デンマ大麦国 (’dan ma’i nas rdzong)
リン国の将軍デンマはもともとデンマ国の出身である。国王サホルに国から追い出され、リン国にやってきたという経緯があった。デンマには祖先の偉業を継ぐという使命感があり、ケサル王に頼んでデンマ大麦国に侵攻するのを許してもらった。サホル王はすでに死に、王子サレン・オルボが全軍を率いてリン軍に抵抗した。しかし王子はリン国の大将ギェルキュンに矢で射られて死んでしまう。リン軍はデンマ国の大麦貯蔵庫をあけ、兵士や民衆に大麦を分配した。
第18巻 ベラ羊国 (sbe ra lug rdzong)
ケサルはトゥクを征服したあと、ベラ羊国(あるいは山羊国)を攻めた。その国王ラツェン・チドゥに投降をすすめたが、拒んだので、ケサルは国王を殺した。ケサルは奪った羊を兵士や民衆に分配した。
ベラはカム地方の白利(ベイリ)土司を指すとも、ネパールやポミの南にあるペマガンを指すともいわれる。
第19巻 アブセ甲冑国 (a bze khrab ydzong)
ケサルは赤い馬頭金剛に変身し、トトンに授記(仏国土に往生することの約束)を与え、アブセ国に甲冑を取りに行くよう命じる。このことにより、両国の間に戦争が勃発した。最後にはリン国が勝利し、黄金の甲冑と白銀の甲冑を手に入れた。
第20巻 ミヌブ絹織物国 (mi nub dar rdzong)
ミヌブは女国であり、島国である。国は上、中、下三部に分かれる。女王ダルドンは中ミヌブと下ミヌブを自ら統治し、第二女王ラルドンが上ミヌブを統治する。彼らはボン教を信仰している。リン国がベラ国を征服すると、女王ダルドンは報復したいと考えるが、第二女王はリン国と和睦を結びたいと考え、内紛が勃発した。
第二女王はリン国に援軍を求めた。リン軍がやってきて、ケサルは女王ダルドンを殺し、勝利をおさめた。
第21巻 テウラン玉国 (the’u rang g-yu rdzong)
ケサルがテウラン9兄弟に勝利する物語。
第22巻 西寧(シリン)馬国 (zi ling rta rdzong)
ケサルは11歳のとき西寧馬国に行き、妖魔チダシャを制圧し、貧者を助け、裕福な者を抑圧した。西寧で得た馬はリン国の各部落に分配した。
第23巻 地獄救母 (dmyal gling rdzogs pa chen po)
ケサルの母は死後、地獄に落ちてしまった。ケサルはそのことを聞いて地獄に闖入し、母だけでなく、地獄で苦難を味わっている人々すべてを救った。
第24巻 安定三界 (khams gsum bde bkod)
年老いたケサルは王位を後代に託して(子供説もあるが、ギャツァの子、すなわち甥とされる)天界に戻る物語。
第25巻 アタク瑪瑙国 (a grags gzi rdzong)
ケサルは兵を出してアタク瑪瑙国を攻撃した。チベット王の調停によってアタク瑪瑙国は投降する。瑪瑙宝庫が開けられ、分配される。彼らはボン教を信仰していたが、仏教に改宗した。
第26巻 中国とリン (rgya gling)
中国の王朝の皇后は妖魔だった。彼女の死後、その遺体は蘇りもありうると考えられ、保存された。ただしこの遺体は国と国民に災難をもたらすかもしれなかった。皇帝の娘のひとりはケサルに使者を送り、妖魔を倒すよう頼んだ。ケサルは妖魔の遺体を焼却して害を未然に防いだ。
第27巻 世界焚煙 (’dzam gling sbyi bsang)
ケサルが王位に就いて王妃を娶ってから2年半後、アムド地区の山神(ユラ)および土地を見る専門のボン教徒や黒い妖魔の機嫌をいつもうかがわなければならなかった。そこでケサルは、香煙(サン)を焚き、神をまつる儀礼を大々的におこない、リン国の保護を祈った。
この儀礼がおこなわれたとき、北の魔国の寄魂(ラネー)である魔牛があらわれたので、ケサルは矢を放ち殺した。またホル人が馬を略奪しようとしたが、それも撃退した。
第28巻 アタラモ (a stag lha mo)
ケサルが中国に遠征しているとき、宮殿のなかで待っていたもともと北の魔王の妹だった第二王妃アタラモが病死した。その霊魂は地獄に落ちた。魔物であった時代に数多くの人間を殺したためだった。ケサルは帰国後、地獄へ行き、閻魔王と直談判して、彼女と18層の地獄で苦難を受けているほかの者たちを救った。