14歳までのケサル  サムテン・G・カルメイ (宮本訳) 

天国のケサルはトゥパガ(Thos-pa-dga’)と呼ばれた。彼は、幸福をこの世界にもたらすため、地上に降臨してセンロン(Seng-blon)とゴクサ(’Gog-bza’)の間に生まれた。

 

1歳のとき、ケサルの生命を害するために、マシ・トトゥン(Ma-bzhi Khro-thung)の助けを借りて、呪術を用い、ゴムパ・ラツァ(sGpm-pa ra-tsa)が送った3羽の黒鳥を、彼は弓で射て殺した。ケサルは呪術師であるゴムパ・ラツァを調伏した。

 

2歳のとき、アブラ・シンポ・ゴグ(A-bra Srin-po mgo-dgu)がリンの人々にさまざまな災難をもたらした。ゴンマ・ギャルモ(Gong-ma rgyal-mo)から予言を受け取ったケサルは、ディチュ(’Bri-chu)川西岸で、チャンカル(lCang-dkar)という歩く棒の助けを借りて動物を制圧した。[訳注:A-bra=Ab-ra 無尾地鼠] 

 

5歳のとき、彼はツァワの要塞ツァワ・ダゾン(Tsha-ba mda’-rdzong)を攻略した。そしてミクギャ・ツェンポ(Mig-brgya btsan-po)王を家臣とした。ここで彼は3本の特別な竹の矢を発見した。そのうちの1本は天神(lha)に、1本はニェン(gnyan)に、もう1本は人間のためにとって置いた。

 

7歳のとき、山羊の要塞カセル・ライ・ラゾン(Kha ser ra'i ra rszong)、そしてその王カセル・ギャルポ(Kha ser rgyal po)を攻略した。彼は何千匹もの山羊をリンに連れて帰った。そのなかには法螺貝の角を持つ白い山羊やガルダの角を持つ黒い山羊が含まれていた。彼は動物(山羊)をリンの人々の間で平等に分けた。

 

8歳のとき、ケサルの父方の叔父トトゥン(Khro-thung)は甥のために、リンにおける政治的影響を失ってしまうのではないかと恐れた。そうしたことから、彼はケサルを母とともにマメ・ユルン・スム(rMa-smad gyu-lung)へと放逐した。このためケサルと母はヤクのような生活を送らざるをえなかった。

 

9歳のとき、チポン・タゲン(sPyi-dpon Khra-rgan)の命令に従い、叔父トトゥンの助けも借りて、ケサルはデンマ王(’Dan-ma)の地域に遠征した。デンマから彼は豊かな大麦をリンに持ち帰った。

 

10歳のとき、かつてないほどの大雪がリン国全体に降った。そのため人間の家畜も身動きが取れなくなった。一方で、ケサルと母が生きているマメ地方は太陽が照り、花々が咲き誇り、虹や果実の木の花も見られた。リンの最長老であるチポンは、草地を借りるため、ケサルの異母兄弟であるギャツァ・シェーカル(rGya-tsha Zhal-dkar)とデン国出身の英雄ツァシャン・デンマ(Tsha-zhang ’Dan-ma)をマメ地方に派遣した。ケサルは彼らに草地の使用を認めた。

 

12歳のとき、リンの3大氏族によって、大きな競馬競技会が開かれた。賞品はリンの王座と美女ドゥクモだった。ドゥクモの美貌は有名で、リン国内だけでなく、宿敵のホルにも知られていた。勝ったのはケサルだった。全速力で駆けて最初に地面からカタ(スカーフ)を取ったのである。こうして彼はドゥクモと結婚し、リンの国王の座に就いた。そしてセンチェン・ノルブ・ダドゥル(Seng-chen Nor-bu dgra-’dul)と名乗った。

 

13歳のとき、マシェダク(rMa Shel-brag)の財宝の蔵を開くときがやってきた。ケサルはさまざまな軍備品を発見した。金、銀、法螺貝の経かたびら、珊瑚でできた兜、指輪がついた投げ縄、鉤、剣、金襴緞子の武衣、数などである。

 

14歳のとき、ケサルはリン国中の英雄を集め、天界の神(ラ)、地上のニェン、地下世界のルのための浄化儀礼(bsang)をおこなった。この儀礼はザムリン・チサン(’Dzam gling spyi bsang)すなわち現世界のための浄化宇宙儀礼と呼ばれる。このとき、彼は巨大な野生のヤク(’brong)を矢で射抜いて殺した。というのも、北方に住む大悪魔ルツェン(Klu-btsan)の魂の住まいだったからである。これはケサルのつぎの遠征先となる。