神はふたたび語る 第1部 1 ケネス・E・バウアーズ 宮本訳
神の門
ムッラー・フサインが会った人物、アリ・ムハンマドという名の若者は「約束された者」として認定された。彼の緑のターバンは彼がサイードであること、つまり預言者ムハンマドの後裔であることを示していた。この時点までは、彼は友人や生まれ育った町シラーズの知人をのぞくと、ほとんど知られていなかった。彼は商人だったので、特別な宗教的トレーニングは積んでいなかった。それどころか小学校さえ卒業していなかったのである。
彼の知識と人間性は友人や家族にはよく知られていた。彼は知的能力や奇跡的とさえみなされた精神的能力に秀でていた。ペルシア語やアラビア語で書いた文章にもそういったことは明確に現れていた。とくにアラビア語で書かれたものはその力と雄弁さにおいてコーランそのものと比較されたほどである。彼が宣言をおこなう何年も前から知っていたある人物はつぎのように書いている。
私は何度かバーブとお会いする機会がありました。会うたびに、言葉ではうまく言い表せないのですが、とてもつつましやかで、謙遜されているのです。いつも控えめで、極端なほど丁重な物腰、またその穏やかなお顔は、わが魂に刻まれ、消えることはないでしょう。私はしばしばバーブに近い人々が、その人間性の清らかなこと、ふるまいが魅力的であること、自我を消し去っていること、高潔であること、そして神に絶対的に帰依していることを証言しているのを聞きました。
彼は「約束された者」としての使命を最初にムッラー・フサインに知らせた。それから「約束された者」を探していた小さな集まりに知らせた。それから彼は自分が「神の門」すなわちアラビア語の「バーブ」であると彼らに宣言した。
バーブの宣言の核となるのは2つのテーマだった。第一に、彼はもっとも新しい神の使者であり、キリスト教やイスラム教と同様の新しい宗教を啓示するために送られたこと。第二に、彼はさらなる大きな啓示の先触れであること。その啓示は彼自身のものよりもはるかに重要で、地上の神の王国を建設することに関する過去の預言を満たすというものだった。啓示の使者はじきにやってくるのだが、ただしそれは彼自身が殉教者となったあとのことだという。彼はその第二の使者のことを「神が現わし給う者」と呼んだ。
初期の弟子たちの小グループにたいし、バーブは町を出て、ペルシアとイラク中を回って「約束された者」が再臨したことを伝えるようにと命じた。バーブの言葉を耳元で鳴らしながら、弟子たちは使命を完遂すべく各地に向けて出発した。国全体がバーブのことを知ることになり、人々は心の底から感銘を受けることになった。
バーブが教えを説き始めたとき、年は25歳前後だった。数年のうちに何万にもの人々が新しい宗教を信仰するようになった。それと同時に、バーブのつぎに現れる者への期待もいやおうなしに高まった。