棘(とげ) 

 むかしある国に、とてもひどい刑罰がありました。犯罪者はおなかをすかせたライオンのエサにされたのです。残虐な光景を見たくて、多くの人が集まってきました。

 その日の犯罪者は主人のもとから逃げ出した奴隷でした。彼は高い壁に囲まれたアリーナに取り残されました。そこへ腹をすかしたライオンが放たれます。ライオンははじめ品定めをするかのようにこのかわいそうな男に近づきました。しかし男に襲いかかるどころか、その手をなめはじめたのです。

 観客は驚きました。なぜ襲いかかってこないのか、彼らは男にたずねました。

 奴隷はこたえました。

「以前森の中を歩いていたとき、痛みにもだえ苦しむライオンと出会いました。見るとその前足に棘(とげ)が刺さっていたのです。私は棘を抜いてやりました。そのとき以来私たちはいい友だちになったのです」

 人々はこの話に感銘を受けました。彼らは奴隷もライオンも解放することにしました。驚く人々の目の前で、ライオンは奴隷の男のあとを、ペットの猫のようについていきました。

 われらの予言者はとてもすばらしい言葉を述べています。

 

 慈愛の心のある人々に、神はあわれみをお示し給う。この地上において、生き物を慈しめよ。そうすれば天上においても、あなたがたは神からのご寵愛を授かることになるだろう。