上着
羊飼いのアーマドは悲しくてたまりませんでした。悲惨な戦争のあいだに彼は持ち物のほとんどを失ったからです。妻は死に、子供も行方不明になってしまいました。町での仕事を失い、彼は田舎で羊飼いを始めたのです。
ある日、道路の脇で羊を放牧していると、人々が通りかかりました。彼らは若者を町の病院へ運んでいたのです。若者が彼より貧しいのは一目瞭然でした。着ている上着も薄っぺらで、寒さをしのげるものではなく、ぶるぶるとふるえていました。アーマドは見かねて長年着ている上着を脱いで、若者にかぶせました。
病院で待たされているあいだ、若者にだれかが「お父ちゃん」と声をかけてきました。見上げると、そこに立っているのは見知らぬ青年です。声の主の青年もまた若者を見て驚いた様子です。
青年はわびました。
「すいません。父親と間違えてしまいました。あなたの上着が父親の上着とよく似ていたからです。父親とはもう何年も会っていなかったので」
病人の若者は青年に、父親はだれなのかとたずねました。質問したあと、若者はこの青年が羊飼いアーマドの行方不明になっている息子であることに気づきました。彼は青年に「あなたは人違いしたわけではありません。この上着はお父さんのものなのだから」と言いました。病院での診療が終わったあと、彼はアーマドの息子をつれて村へ戻りました。
われらの愛すべき予言者は真実を述べています。
すべての親切は十倍になって報われるものだ。