アイリーン、かく語る 

偉大なる霊媒に憑依した人格との対話 

アイラ・プロゴフ 訳:宮本神酒男 

 

<解説> 邦訳は現時点で『ユングと共時性』と『心理学の死と再生』だけだが、ニューヨーク市生まれのアイラ・プロゴフ博士(19211998)はジャーナル・ライティングという画期的な手法を編み出したことで知られるユング派の心理学者である。プロゴフは好奇心が旺盛な学者であったようで、たとえば14世紀の神秘主義文献『不可知の雲』(作者不明)の心理学的研究を試みている。

学問の王道から踏み出した意欲的な研究としては、この『アイリーン、かく語る』(原題The Image of an Oracle)を挙げたい。なにしろ、当時霊媒として有名だったアイリーン・ギャレットにトランス状態に入ってもらい、現れたいくつかの人格と対話を試みるというのだから。心理学における実績がなかったら、下手をするとトンデモ科学者、あるいは心霊学者呼ばわりされていてもおかしくない。

 学者ならずとも、霊能者をアカデミックに分析したらどうなるのだろうかと、興味がわく。霊能者を信じ込んでしまうとあっち側の人になってしまうし、多くの学者のように、はなはら否定してしまっては研究にならない。心霊学者などという肩書がついていたら、かぎりなくあやしげである。この手の研究はなかなかむつかしい。

 被験者のアイリーン・ギャレットは、不思議な霊媒である。いかなる著名な霊媒でもそうであるように、憑依状態の彼女が言うことはもっともらしかったり、当たっていたりするいっぽうで、曖昧でどこかピントがずれることがある。しかしほかの霊能者と著しく異なるのは、彼女の知能がきわめて高く、教養が豊かであることだ。懐疑者は事前に勉強するのだろうと言うかもしれないが、専門家を前にしてうならせるほどの内容の(故人の)発言をすることができるのは彼女くらいのものだった。

 この対話集においてアイリーンに現れた人格は、扉の守護人ウヴァーニ、サイキック治療師アブドゥル・ラティフ、言葉の贈り手タホテー、生命の贈り手ラマーの4人だった。アイリーンはイカサマ師で、これらは作られた人格だったのだろうか。プロゴフは真偽をあばこうとしているのではなく、アイリーン・ギャレットという天才でかつ特異な存在、あるいは現象について探求しようとしているように見える。それはまた、彼の専門である深層心理学の研究へとつながっていくものである。




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