諸世界
ヴェーダ社会では、他の世界への旅行は可能だと考えられている。これには他の惑星系への旅行や高次元への旅行、他の惑星系の高次元地域への旅行なども含まれる。それはまたこの物質世界を離れること、超越地域への段階的な旅行も可能だということである。
ヴェーダ文学ではこの種の旅行に触れるとき、高次元や他の面といった幾何学的な言葉が使われることはない。しかし他世界への旅行が旅行者の体験として語られることは多いのである。現代の読者からすれば、それは三次元空間を超えた動きとして解釈できるだろう。三次元に慣れた現代社会の者として、三次元で理解できないヴェーダの描写に関して私は高次元空間という言葉を用いたい。
たしかに古代インドの人々は星や惑星にたいして繊細な、非科学的な理解しかできなかったという反論があるかもしれない。しかしだからといって、そのような場所から来た存在と実際に接触したと仮定するのが理にかなっているとも言い難い。西欧の概念とはまったくかけはなれた考え方が含まれるので、ヴェーダの宇宙の描写は西欧のバックグラウンドを持つ者にはとても奇妙で、神秘的に感じられるのだ。しかし現代科学のなかに見いだされる宇宙に関する考え方もまた含まれている。
たとえば、つぎの星々の地域を英雄アルジュナが旅する場面の描写について考えてみよう。
そこには太陽の輝きも、月や炎の輝きもなかった。そこにあるのは自らによって得た自身の輝きだけだった。星々として見られるこれらの光は、遠くにあるため、油のランプの炎のようにわずかなものだったが、実際は大きなものだった。パーンダヴァはそれらが自身の炎の炉床で、明るく、美しく燃えていると考えた。
これら自身で輝く世界を見たパルグナは驚いて、マータリにニコニコしながら聞いた。するとほかの者がこたえた。「彼らは自身の炉床で輝く聖者のようにふるまう男たちだ。主よ、地の下から出てくる星々のように彼らは見えるだろう」
この一節にはなじみある要素となじみのない要素が同居している。もし太陽と月から遠い宇宙空間を旅するなら、それらを見ることができないだろうと考える。また星々が大きく、自身で輝いているとしても、距離があれば小さく見えるだろうと考える。しかしながら「聖人らしくふるまう人々」がそこに居住しているとは考えない。そして星々を人のようにみなすのは奇妙なことのように思える。ヴェーダ文献のなかでは星を人に見立てるのはごくふつうのことなのである。この人は、通常星の統治者のことであり、支配階級のことである。
ここでも古代インドにおいて、地球は平面だと考えられていたのではないかという異論が寄せられるだろう。実際ヴェーダ文学には、地球の見方がふたつある。ひとつはスーリヤ・シッダーンタ(Sūrya-siddhānta)というサンスクリットで書かれた天文学の論文の見方で、地球は直径1600ヨージャナの球体として描かれる。ヨージャナは長さの単位で、1ヨージャナあたり5マイル(8km)である。地球の直径は8000マイル(12800km)となり、現代の計測(訳註:12742km)とほぼ一致する。おなじ文献は、月の直径を480ヨージャナ、すなわち2400マイルとしている。現代において月の直径は2160マイル(訳註:3474km)である。
地球はまた平面の円盤として描かれる。これはブーマンダラ(Bhū-mandala)と呼ばれ、直径は5000万ヨージャナである。しかしながら、ヴェーダ文献を注意深く読むと、この地球とは、実際のところ黄道面のことである。天動説から見ると、この黄道面は地球を回る太陽の軌道によって決まるということである。黄道面はもちろん平面であり、このように、ある意味、ヴェーダ文学は平面地球を語っているのだ。ヴェーダ文献でのように、地球という言葉はかならずしも球体を意味していないことに注意を向ける必要がある。
居住者のいる高次元の領域というとき、ヴェーダにおいては、外宇宙すべてだけでなく、地球上、そして地球内部も含んでいると理解される。とくにブーマンダラの地球は、太陽系の面(黄道面)にまでのびている。つまりわれわれの感覚によって直接識別できたり、アクセスできたりするとはかぎらないのだ。このような居住可能な領域は、サンスクリット語でローカ(loka)と呼ばれる。ローカはしばしば惑星とか惑星系と翻訳される。ローカには上の7つ、下の7つの、14の階層がある。ブーマンダラあるいはブーローカは7つの高い惑星系の最下層に位置する。
太陽、月、そして水星、金星、火星、木星、土星の惑星はグラハ(grahas)と呼ばれ、それらは居住不可能とされる。(しかしヴェーダ文献において、私は天王星、海王星、冥王星に対する言及を見たことがない) 驚くべきことではないが、太陽の居住者はすさまじいエネルギーを持った者とされる。ほかの惑星の居住者たちの身体も、それぞれの環境に適したエネルギーから形成されたといわれる。