心風景 landscapes within 49 宮本神酒男 
山の虹と地の虹 


インド・ラダック、カルギル地区スールー谷のチベット仏教ランドゥム寺(右下)。Photo:Mikio Miyamoto 

 カルギルで車をチャーターして、ザンスカルめざしてスールー谷を走る途中、立ち寄ったランドゥムで、世にもまれなる光景と出くわした。

 小高い丘の上に建つチベット仏教ゲルク派のランドゥム・ゴンパの背後にそびえる聖なる二重山(よく見れば山が二つ連なっている)の麓に虹が立ったのである。虹の下の湿地帯には、このあとそこを訪ねているのだが、十数頭の馬がしあわせそうに草を食んでいた。

 私には天啓のように感じられた。数億年かけて大地が傾いてできた斜めの地層は、「山の虹」だと思った。調和の大切さを説いている高貴なラマのような聖なる山である。一つの山に見えるが、真実の姿は連山である。物事の見方までこの山は教えようとしているかのようだ。

 何億年もかけて形成された山肌の虹と、数分間の命の地上の虹が、奇跡的に、ほんの刹那、交わったのである。