甲馬(ジァマ)から読む中国民俗(1) 雲南大理
天狗の神
中国では月食は月が天狗(文字通り天の犬)に食われることによって起こると信じられている。人々は銅製の盆などを鳴らして天狗を追い出す祭儀を行なう。しかしまた財を守る神としてとらえられることもある。番犬のイメージから生れた信仰だろう。この甲馬には天狗に乗った姿で描かれるので、神=天狗というわけではなさそうだ。
河泊水神
溺死した霊と関係する神。毎年新たな溺死者が出ると、前の溺死者は閻魔のもとへ行くことができる。人々は河泊水神に祈り、家の門にやってこないように願う。また水泡や腫れ、できもの、下痢などはこの神によって起こされるとされ、許しを請う。なお通常の伯という字でなく泊を使うのはなぜかわからない。
橋路神
橋神、路神の二神。人がひとたび門を出ると、この橋路神に安全を祈ることになる。遠くで死んだときも、その亡魂が郷土に戻れるよう家族は橋路神に願う。生きた魂であろうと、死んだ魂であろうと、橋路神の助けが必要となる。魔物を追い払うときは、そられの逃げ道をふさぐ役目を負う。
火部の神
火の神、水の神はときには火水二神としてセットで描かれることがあるが、ここでは火部の神のみ。火は古代より崇められてきたが、同時に災いをもたらしてきた。火神は鳥の姿をしているという信仰が雲南にはあるが、そんな火の暴走を食い止めるのが刀を持った姿で描かれる火部の神(火神の頭領ということだろう)なのである。
趙公明財神
財神は中国の民間神のなかでももっとも典型的な神だが、文財神と武財神とに分けることができる。文財神には殷・比干や越の范蠡、武財神には関公やこの趙公明が挙げられる。趙公明は道教の神で、張天師の弟子であり、黒虎に乗って丹室を守る。しかし『封神演義』などに登場することによって大衆人気を得たといえる。大理地区ではとくに人気絶大である。
秧サツの神・喪車神サツ
このサツという字は道教の用語であり、凶、災いなどの意味をもつ。サツは牡雌のつがいと考えられ、交互に死んだばかりの魂を食べたり、奴隷にしたりする。葬送儀礼においてアジャリや法師、巫師などは牡雌のサツ神を駆逐しなければならない。秧サツというのは凶事を植えるという意味だろう。また喪車神というのは死者の魂が死後の目的地へ無事に送り届ける役割を負う。これらのことから、葬送儀礼のときに亡魂を送るために用いられた甲馬であることがわかる。
山神土地
明代初め、太祖朱元璋の号令によって中国全土に山神土地廟が建てられ、それ以来どこでも見かける廟になった。さして力をもっているわけではないが、ふたりの好々爺とした神には祈りやすいのだろう、
水府竜王
白族の本主教の神々のなかでももっとも重要なのが竜王である。竜は大理地区の大きな湖、ジ海(サンズイに耳)の底に住むと考えられている。九股水竜王、活泉竜王、温水竜王などあまたの竜王が存在するが、水府竜王はそのなかでももっともオーソドックスだといえるだろう。ジ海は大理の東に位置するので東海とも呼ばれるが、東海竜王というのは古代中国の信仰とも合致するのである。
九霊竈君
かまどの神である竈君(そうくん)は玉皇大帝が各家に派遣した家神だという。農暦8月3日は竈君の誕生日であり、12月23日は竈君が天に戻り玉皇大帝に報告する日で、お供え物をしてよく祀らなければならない。正月一日は竈君が戻ってくる日なので、竈君の甲馬を大量に燃やす。子供が夜鳴きするときは、鍋に油を満たし、火をつけて灯し、竈君の力を借りて子供の邪気を祓うのだという。
当年太歳
太歳は星座名であり、また木星を指すが、凶神である。建設のために鍬を入れるときや、冠婚葬祭、移住するときなど、太歳が頭上にないように気をつけなければならない。また一年間の農業生産も管理しているので、甲馬を燃やし、よく祀る必要がある。
当生本命星君
本命年(干支の年)にあたるたび、財をすったり、病気になったり、さまざまな悪い事が起こるので、その難関を乗り越えなければならないが、星君に頼むのが一番である。我々の運命は天上の星ひとつひとつと結びついている。それらを管轄しているのが星君なのである。また病気になり、駆鬼儀礼を行なうとき、星君にいわば身分を保証してもらい、別の人の魂をあの世にもっていってもらう。
娘娘(ニャンニャン)の神
娘娘は女神という意味だが、この場合子孫娘娘や送生娘娘など子孫や子育ての女神を指すと思われる。背後の木は子孫が栄えることの象徴だろう。
九霊竈君
水府竜王