ホル王によるブルクマの連れ去り 

1 

 ホルの王には妻がなかった。それゆえ2羽のワタリガラスを世界各地へ送り、妻を探した。彼はケサル王がリンから離れたことを知り、王妃ブルクマを盗むことを決めた。

すべてのアグたちはスポーツ活動を楽しむために「冷たい谷」に行っていた。アグ・クラインゴ・クライトゥン(Agu Khrai mgo khrai thung)だけがデム・デムミ・デム城(lDem ldemmi ldem)に残っていた。

彼は2つの帽子をかぶり、彼の犬も、2つの首輪をつけていた。これが意味するのは、彼自身の信念によると、ケサルが行方不明になり、彼がリンの新しい君主になったことだという。

ブルクマはひどい夢を見た。夢の中で彼女は水と火によって連れ去られ、アグ・ブマル・ラムテン(Agu ’Bu dmar lam bstan)がホル王に殺された。

夢の意味について彼女が占い師にたずねたところ、占い師は、夢はすごくよくも、すごく悪くもない、とこたえた。彼女は家に戻った。[訳注:この占いはサイコロを使ったもので、モディ(mo rdi)と呼ばれる] 

 

2 

 ブルクマの召使いが水を汲みに行った。そして湖の反対岸にホルの将軍シャンクラミル(Shankramiru)の姿を見た。シャンクラミルは召使いに、強固な城、英雄、俊敏な馬、獰猛な犬、賢い婦人、父性的な神、母性的な神、剣、矢、槍の名をたずねた。

 召使いは恐ろしくて、何もこたえないで走って逃げた。ブルクマは彼女が戻ってくるのが遅かったので叱った。彼女は召使いが3歩以上進むのを許さず、3語以上の言い訳の言葉を認めなかった。しかし3語のみ話すことを許し、召使いは見たことを報告した。ブルクマは召使いの着物を着て、自分自身でたしかめるために外に出た。シャンクラミルがおなじ質問をすると、ブルクマは答えた。

「かつて強固な城といえば、リン・カル(gLing mkhar)城でしたが、いまはデム・デムミ・デム・カル(lDem ldemmi ldem mkhar)城です。

かつて英雄の名といえば、ケサルでしたが、いまはブマル・ラムテン(’Bu dmar lam bstan)です。

かつて駿馬といえばキャンゴ・ベルパ(rkyang rgod dbyerpa)でしたが、いまはンゴログ・ポンポン(sNgorog pon pon)です。

かつて獰猛な犬といえばセル・リン(gSer ling)でしたが、いまは雌犬トム・カル(lTom dkar)です。

かつて賢い婦人といえばブルクマでしたが、いまはパルマイ・アスタグ(dPalmai astag)です。

かつて父性的な神といえばケルソン・ニェンポ(Kerzong snyanpo)でしたが、いまはラブラ(Rab lha)です。

かつて母性的な神といえばクルマン・ギャルモ(bkur dman rgyalmo)でしたが、いまはダクラ・ギャルモ(Drag lha rgyalmo)です。

かつて鋭い剣といえばドバ・チョマ(rDoba chodma)でしたが、いまはミクシリ・ラルグリ(Mig siri ral gri)です。

かつて速い矢といえばセルダー・ジュクリン(gser mda’ mjug rings)でしたが、いまはダーカルポイ・ラムテン(mda’ dkarpoi lam bstan)です」

 このあと、ブルクマは城に、シャンクラミルはホル軍のもとに戻った。

 冷たい谷から戻ってきたアグたちは会議を開き、互いに監視することを決定した。彼らはそれぞれのために火をつけ、火が消えた者は殺されるであろうと言った。夜、彼らはホルの野営地へ行き、すべての馬を盗んできた。ブマル・ラムテンはまだ子供だったので、ほかのアグたちについていけず、彼が手に入れることができたのは、三本脚の馬だけだった。明け方の光が現れたとき、彼は頭をリブシン(ribshing 見えない帽子)で覆った。すると透明人間になった。

 ホル王によって送られた2羽のワタリガラスは「妻」を探し、戻って報告した。

 彼らはラユル(Lha yul 神の国)へ行った。王ワンポ・ギャプシンには3人の娘がいた。ひとりは口がきけず、ひとりは目が見えず、もうひとりは耳がきこえなかった。そこには人のための食べ物も、馬もなく、よい道もなかった。

 それから彼らはルユル(kLu yul 竜の国)へ行った。王ジョクポ(lJogspo)には3人の娘がいたが、ひとりは足をひきずり、ひとりは両手が不自由で、もうひとりは太りすぎていた。

 それから彼らはバルツェン(Bar btsan 中間のツェンの国)へ行った。母キャプドゥン(sKyabs bdun)には3人の娘がいた。ひとりは曲がった鼻を持ち、ひとりははげていて、ひとりは首が長すぎた。

 最後に彼らはリンへ行った。王妃ブルクマはたいそう美しく、その上半身は金色、下半身はトルコ石色で、髪は金色だった。[註:伝説によれば黒色] またリンには必要な兵力も馬も十分にあり、道もよかった。

 このようなことから、ホル王にとってもっとも妻にふさわしいのはブルクマであるという結論にいたった。ケサル王は悪魔の国で行方不明だし、アグ・パルレは年を取りすぎ、ほかのアグたちは冷たい谷に行っていた。2羽のワタリガラスはリンの地に、食べられる骨と酒種(sbang ma チャンの元種となる大麦の粒)も発見していた。

 ブマルはワタリガラスがしゃべっていることを聞くと、杖を投石器として使って彼らを殺した。ホル王はこのアグの姿が(透明人間になっていて)見えなかったので、彼の家来であるワタリガラスたちが虚空から落ちてきたので驚いた。王は彼らを埋葬し、アグ・ブマル・ラムテンは三本脚の馬に乗ってアグたちのもとに戻った。その三本脚の馬を観たアグたちに嘲笑されたので、彼は馬をホル王の野営地に返却した。もっとも、その馬はじつのところホル王の魔法の馬だった。

 シャンクラミルは魔法の馬に乗ってアグ・パルレとアグ・ブマル・ラムテンのテントの前にやってきた。ふたりのアグは、シャンクラミルの弓矢の腕前に驚かされる。彼は矢を放ち、飛んでいる3羽の鳩の真ん中の鳩を射落とした。それは彼の馬の尻繋(しりがい)に落ちた。ほかの矢はシャンクラミルの尻繋を破壊した。

その日はチベット人にとっても、イスラム教徒にとっても聖なる日だったので、彼は戦いたくなかったのである。それゆえ彼は口から音(家畜を誘導する合図)を発し、盗んだ馬に魔法の馬のあとを追うよう仕向けた。このようにしてホルの馬を取り戻すことができたのである。

 すべてのアグは、ふたたび冷たい谷にいたので、ホルの軍隊はリン城に乗り込んだ。それからデム・デムミ・デム城を攻めた。ブルクマとアグ・クライトゥンだけが取り残された。アグ・クライトゥンは兵士たちを競技大会に招き、肉やバター、またブルクマを呼んで楽しませた。それからホルの軍隊はまたリンへ行った。[註:デム・デムミ・デム城はリンの外にあるようだ] 

 

3 

 ブルクマは軍隊を整え、ホル軍と戦おうとした。しかし彼女が女ではないかと疑った敵の鬨の声におびえてしまった。彼女は敵に屈し、ホル王の妻となった。しかし肉とバターの備蓄がなくなるまで、そして羊の糞によって、空にも地にも届かない城を築くまで、彼女は城を出ようとしなかった。このようにして彼女は27年間を稼ぐことができた。

 これらの条件が満たされたとき、ブルクマは彼女の衣を召使いに着せた。ホルの王は彼女がブルクマだと思って連れて行った。

 ブルクマはリン城の馬小屋のなかにいた。馬糞の山と銅鍋の下に隠れていたのである。

 ひとりの老女がホル王にリンの地へ戻り、馬小屋で競馬を催すことをすすめた。このときブルクマの髪の毛が馬の脚にからみつき、彼女は発見され、連れて行かれた。

 いまやホル軍と戦うのは、微力なアグ・クライトゥンだけだった。彼は敵兵を100人倒したが、敵の鬨の声を聞くとおじけついた。アグ・アンガル・ツァンパもまた連れ去られ、牢獄に入れられた。

 

4 

 ホル軍と戦う準備に入る前、ブマル・ラムテンはアグ・パルレに、とくに新しい武器を使うべきか、古い武器のほうがいいかについての助言を求めた。アグ・パルレは古い武器を用いることをすすめた。そして戦闘において、ライオン、キツネ、カラスをまねるようにといった。また剣を持つ男の左側に、ライフルを持つ男の右側に行かないようにと言った。

 しかしもっとも重要な助言を言い忘れた。直接口から水を飲んではいけないことと、鎖かたびらを脱がないことである。というのも、ブマルの体は鋼のようであったが、肩の下に鏡ほどの大きさの「肉」の部分があったからだ。

 ブマルはホル軍の兵士の半数を殺し、ブルクマを取り戻した。ブルクマを馬に乗せて戻るとき、彼はどうしようもないほどの眠気に襲われた。そしてあとをつけてきたシャンクラミルが近寄ってひそかに話しかけ、ブマルの体の弱点についてたずねた。

ブルクマはホル王を好きになりかけていたので、シャンクラミルに、馬に乗って彼らより先に行って、水車小屋の下の部屋に身を隠すよう助言した。ブマルとともに到着したブルクマは、少年(ブマル)に、少し休んで、鎖かたびらを脱ぎ、水を飲んだらいいと言った。

悪意に気づいていない少年は、助言の通りにした。そして水を飲んでいるとき、シャンクラミルに「肉」の部分を射抜かれてしまったのである。ブルクマとシャンクラミルはブマルを降伏させ、その場に残して立ち去った。[註:ブマルとジークフリート(ジーフリト)との間には共通点が多い。両者とも帽子を被って姿が見えないようにする。両者とも肩の下に弱点を持つ。両者とも疲れて水を飲んでいるときに殺される。両者のケースとも、動機は違うが、弱点を教えるのは女である] 

 その後すぐ、アグ・パルレは水車小屋に到着すると、ブマル・ラムテンの仇を撃つ決心をした。(虫の息の)少年はアグ・パルレにまず治療をしてほしいと懇願したが、パルレはその場を離れ、シャンクラミルのところへ行って彼を殺した。

パルレはシャンクラミルの皮膚の下に砂を詰め、彼の馬に乗せてホル軍の方向へ走らせた。この光景は人々に衝撃を与えた。しかしともかく、ホル王とブルクマはホルの国に無事に戻ることができた。

 アグ・クライトゥンはブマルより早く到着していたので、ブマルが射抜かれたとき、刺さった矢を引き抜こうとした。しかし矢の先には棘がついていて、引き抜くと、心臓もいっしょに引き抜かれた。

 パルレが水車小屋に戻ってきたときには、ブマルの命を救う希望はまったくなかった。ブマルは息絶える前にこう言った。

「谷間の東、南、西、北の方角に、馬、山羊、ヤク、羊の群れがあります。バルコニーの東、南、西、北の方角に、黄金の水車、一束の真珠、銅の犬、真珠の白色の羊があります。これらすべてを3分割してください。ひとつはリン城の復興のために、ひとつはぼくのために(ブマルの埋葬のため?)、ひとつはケサル王のためにお使いください。ケサル王は戻ってきて、ブルクマを取り戻すでしょう。

しかし彼女には罰が与えられるでしょう。すなわち3年間、髪にムラサキウマゴヤシがつけられます。[註:ブルクマが大地の人格化であった時代の名残であるとフランケは説明する] また3年間、山羊の世話をしなければなりません。また3年間、羊の世話をしなければなりません。また3年間、ヤクの世話をしなければなりません。また3年間、みんなの召使いでなければなりません。また3年間、水汲みをしなければなりません」

 このあとブマルは死んだ。そしてアグ・パルレは遺体を高い丘の上で焼いた。喪に服する間、パルレは一日あたり匙一杯分の麦粉しか食べなかった。

 

5 

 アグ・パルレは村のはずれの祖母に呼ばれ、2羽のコウノトリに伝言を託し、使者としてケサルに送りなさいと言われた。コウノトリを餌付けし、よく洗い、訓練し、リン城のまわりを9回も飛べるようになった。そして手紙をくくりつけて飛ばした。

 ある夜、高い木のてっぺんでコウノトリは休んでいたが、その木の下を母と娘の羅刹が夜の棲家としていた。朝が近づく頃、娘は近くに獲物がいないかどうか、見回りにやらされた。

だれもいないと思い、彼らはケサルの秘密について語り始めた。ケサルは魔女バムサ・ブムキとサイコロ遊びに興じていた。ゲームで彼はすべてを失い、彼の人生をも失いそうだった。

その話をしているとき、羅刹の母娘は、馬肉や人間の肉から遠ざかっていた。そのとき突然コウノトリがクンクンと鳴いた。[註:クンクンはコウノトリの鳴き声] 羅刹の母は鳥に話しを聞かれていたことを知り、頭にきて娘の頭に石をぶつけた。が、その石が跳ね返って母の頭にも当った。母娘ともそれで死んでしまった。

 サイコロ遊びに興じているとき、ケサルはコウノトリの声を聞いた。彼は走って行って鳥たちに言った。

「もしおまえたちがリン城、リンの宝庫、王妃ブルクマ、そしてブマル・ラムテンからのよい知らせを持ってきたなら、白い絨毯を広げて、新鮮な肉を食べてくれ。もしよい知らせでないなら、黒い絨毯を広げて、動物の死骸を食ってくれ」

 その答えとして、鳥たちは黒い絨毯のところへ行って動物の肉を食べ始めた。ケサルは気を失いかけたが、鳥たちは彼の口の近くにやってきて、口の中に糞を落としていった。ケサルは覚醒して、嘔吐した。

この処置によって、バムサ・ブムキが彼に与えていた毒が吐き出され、記憶がすべて蘇ってきたのである。その毒は、鞍布の大きさほどの地面の陰謀によって空に昇らせることができた。またおなじ陰謀によって空から地面に落とすことができた。

 ケサルは彼の愛馬がどこにいるかたずねた。ゼモは彼の悪い行いのため、丘に送られたとこたえた。

 

6 

 ケサルは愛馬を探しに行き、氷とスレート(粘板)岩の近くで発見した。[訳注:チベットにはスレートだらけの地帯がときおりあり、こういう場所や氷河には草が生えないので、馬にとっては過酷な環境] 

ケサルはすぐにでも出発したかったが、バムサ・ブムキのひどい扱いによって受けた背中の傷のため、馬は行きたがらなかった。馬はケサルに、母(アマ)ブルクマの薬と針を耳に入れるよう助言した。それらを適用すると、馬は以前にも増して力強くなった。

 馬はあらかじめバムサ・ブムキがケサルに毒入りバターを食べさせようとしているのを知っていたので、彼女の手から皿を払い落した。そして彼女が光線で馬を攻撃しようとしたときは、ケサルが阻止した。

 ケサルは馬に乗って出発した。しかしバムサ・ブムキとケサルとの間にできた娘は、あとを追って走ってきた。深い川を渡るとき、彼女は馬のしっぽをつかんで離れまいとした。しかし馬が後足で彼女と娘を蹴飛ばすと、彼らは川岸に叩きつけられた。

 バムサ・ブムキは怒りのあまり、自分の娘を殺してしまい、その上半身を食べ物としてケサルに与えた。下半身は彼女自身が食べた。ケサルを上半身を供養するため、ストゥーパ(仏塔)を建てた。

 バムサ・ブムキは悪魔キャバ・ラグリン(Khyaba lagrings)の墓へ走っていった。そして墓に向って吠え立てた。このとき地震が起きて大地が揺れた。[訳注:キャバ・ラグリンはボン教祖師トンパ・シェンラブ・ミウォの伝説にも出てくる悪魔の代表的な存在。ナシ族のトンバ経典にも登場する] 

ケサルは自身の姿を見えなくして急いで墓へ行き、強力な呪文を唱えて悪魔がふたたび現れないようにした。

 

7 

 ケサルと馬がリンとホルの国境地帯に着いたとき、ケサルは急がせるために、先に馬をリンに送った。空や氷河、高い岩、高い平原、湖を越えて行くわけではなかった。それらのところに住む生き物がもたらす害を避けなければならなかった。

 馬がリンに着き、貝殻でできた飼い葉桶の前でいなないているところを、祖母と孫娘が発見し、アグ・パルレに大声で知らせた。

「今日はケサルの馬が到着したよ! 今日は太陽が昇るよ! 氷河の上にはライオンが歩いているよ! 岩の上には大きなアイベックスがいるよ! 牧草地には巨大なヤクがいるよ! 平原には狼たちが吠えているよ! 谷間にはキツネたちが、湖には魚がたくさんいるよ! 峡谷には水が流れ、小鳥の声が聞こえるよ!むきだしの丘には緑の草が生えているよ! 枯れた果物の木が芽吹いているよ! ケサル王から手紙が届いた。おお、パルレよ、いつまでも悲しみに暮れることはない!」[訳註:これは春を告げる歌にほかならないとフランケは指摘する]

 パルレがやってきて、馬のために飼い葉桶を浄化した。すべての人々が馬の毛を集め、彼らの髪をそれで飾り、祝福を表わした。

 鞍の前の部分から手紙が発見された。しかしそれを読むことができるのは、ナーギー(竜女)ダルギ・ゴチョマ(Nagi Dargyi gochodma)だけだった。パルレはナーギーにいい知らせを伝えたが、彼女はそれを信じなかった。

 パルレは毒を湖に投げ入れ、どうにか、彼女をおびきだし、公衆の面前で手紙を読ませようとした。ナーギーは、ラユル(Lha yul 神の国)、バルツェンユル(Bar btsan yul 中間の国)、ルユル(竜の国)から見える、ティスル(Tis su ru)の丘の頂上に上った。この手紙には、戦闘の招集も含まれていた。内容はつぎのごとくである。

「ラユル、バルツェンユル、ルユルの軍隊および彼らの王たち、リンのパルレをはじめとするアグたち、リンのツェグ(rTse dgu)をはじめとするラマたち、リンのペナグ(Penag)をはじめとするモン(Mons 大工のカースト)たち、リンのカログ・ヤンズィン(Karog yang ’dzin)をはじめとする鍛冶師たち、リンのカンリン(rKang rings 長足)をはじめとするベーダ(Bheda 音楽家のカースト)たち、投石器が得意な少年たち、糸巻が得意な少女たちよ、集まれ。

糧食や馬を持つ者は、だれであれ、それを用いよ。何も持たない者は、リン城でそれを受け取れ」

 この軍隊はケサルにしたがって7日間行進した。しかし突然アネ・クル・マンモが現れ、ホル王とはひとりで戦え、と命じた。アグ・クライトゥンを除く全部隊が引き返すことになった。

アグ・クライトゥンは、国を危機に陥れた罰として、18箱の糧食を運ばなければならなかった。彼が疲れて怠けようとしたときには、ケサルはナイフの刃を研ぎ、あるいは火をつけて、働くよう脅した。しかしアネ・クル・マンモは体を無駄に動かすことを嫌い、結局アグ・クライトゥンもリンに帰すよう命じた。

ケサルがアグ・クライトゥンの耳をつかんで思い切り投げ飛ばすと、瞬時のうちに彼の体はリンに戻っていた。