ホル王に勝利する 

1 

 ケサルはひとりでホルへ向かっていた。彼は道が荊(いばら)、スイカズラ、柳(マジャン柳)、タマリスクでふさがれているのを発見した。これらの障害物は、祈祷によって呼んだリンの協力者の助力によって取り除くことができた。[訳注:リンの守護神のことを指しているのだろう] 

 ケサルが夜、スラル(Srar)峠で野営するとき、アネ・クル・マンモが現れ、恐怖の光景を現出して彼の勇気を試した。彼はまず狼や狐が吠える声を聞いた。そしてすさまじい嵐がやってきて、まわりの乾燥糞や小石が吹き飛ばされた。[註:同様のエピソードは、シェー版では北の国へ行く前に挿入されている] 

 この嵐がアネ・クル・マンモによって起こされたことがわかり、ケサルはあわてなかった。それから彼は、彼女からもらった木の実の殻の中の魔法の食べ物を食べた。それは尽きることがなかった。

 坂道を上っていくとき、峠で力を失ったすべての動物たちの歌をうたった。そしてアネ・クル・マンモに加護を頼んだ。彼女は狐を送り、その狐の導きによってケサルは峠を越えることができた。

 7日後、ケサルはサイコロに興じている小人の前哨兵たちと会った。彼らは帽子を柱の上にかけていたが、人が通るたびにそれがくるくる回るようになっていた。

 ケサルは姿を見えなくする帽子をかぶっていたのに、小人の帽子は感応してくるくる回った。小人たちは帽子が回るのに人の姿が見えないので、怒って言った。

「この帽子様は、おれたちが一日中、サイコロ遊びばかりしているのが気に召さぬらしい。それで動いておられるようだな」

 そして小人たちは帽子を下ろし、ケサルは自身の姿を現した。彼は小人たちとサイコロ遊びに興じるが、すべてをすってしまう。というのもサイコロのなかに小人の女が座っていたからである。[訳注:この挿話はナラの物語を想起させるとフランケは述べている。このナラは、マハーバーラタの中の博奕好きのナラ王のこと] 

 命を賭けなければならなくなったとき、アネ・クル・マンモが現れ、サイコロに針を刺すよう助言した。その通りにすると、サイコロの中から小人の女が出てきた。賭けに勝ったケサルは小人たちの命をいただこうと言った。小人たちは、何でも供給することができる魔法の杖に命じて、まわりの国々からもっとも高価なものを取り寄せることで、ケサルと妥協をはかった。それらが届いたとき、ケサルは彼とともに生まれた神々に即座にこれらのものを食い尽くすよう頼んだ。

 そしてケサルは小人たちを脅して、道案内をするよう命じた。小人たちは承諾した。

 

2 

 小人とケサルはツァウ・ドゥンドゥン岩に着いた。これは一種の岩の扉だった。小人たちの命令によって開いたり閉じたりした。ケサルの道案内をした小人たちは、ケサルのために開くよう扉に命じた。開くとすぐにケサルは馬に乗ってなかに入ったが、ケサルだと気がついて閉じたため、馬の尾が扉にはさまれてしまった。ホル王のふたりの子供の首を取ってくると約束してやっと馬は解放された。

それから彼らは天と地の間を石が飛び交う場所に到着した。そしてしばらくして「茶色い砂糖のヤク」の前に着いた。[訳注:自動的に開け閉めされる岩の扉は冬の川や湖に浮かぶ氷のこと、天地間を飛び交う石はあられや雹のこと、茶色の砂糖のヤクは氷の塊、というふうに、フランケは自然現象ととらえている] 

 ある小人がこのヤクに、ケサルがおまえをだまそうとしていると言うと、ヤクはケサルをたちどころに飲み込んだ。ケサルはヤクの体の中にしばらく残ったが、アネ・クル・マンモが現れて助言を送り、教えられた通り、ナイフを使って体を引き裂いて出口を作り、こうしてヤクを殺した。

 ケサルはこの小人にたいして怒りがおさまらず、鼻輪をしたヤクとして使役させるぞと脅した。しかし残りの道は危険ではないと教えたので、小人は棲家に帰された。

 ケサルは9つの橋が束ねられた場所に着いた。そこでは100人のホル兵が警護にあたっていた。ケサルは若いラマに変身し、また大量の雨を降らせた。

彼は何人かの兵士と友だちになり、彼らのために家を一軒建てた。その家の屋根は一本の柱の上にのっていた。

ある夜、大雨が降ったとき、ケサルは絹のひもを柱にくくりつけて外に出て、引っ張った。すると屋根が倒壊し、なかにいた兵士らはみな押しつぶされて死んでしまった。

 ケサルがアサルサル(Asalsal)峠に至ったとき、彼の前に100人の騎手が、後ろにも100人の騎手がいた。アロン(Along)平原にさしかかった頃、ケサルの前に騎手はひとり、後ろにもひとりしかいなかった。

 ケサルが袖を3回捲し上げると、ホルの黄金の城が3回揺れた。[訳注:袖(khrag pa チベット語辞典に載っていない語)を捲し上げる(rdzes)ことと城が揺れる(’gul)ことの因果関係がよくわからない。フランケも説明していない] 

それから彼はホルの羊飼いと出会った。ケサルは彼にケサルと家族の悲しい話について語った。リンから連れ去られてホルに来ていた羊飼いは、話を聞いてわっと泣きだした。するとケサルは本来の姿にもどった。

 

3 

 ケサルは乞食に変装してホルの国にやってきた。

 4つの井戸があった。ひとつはホル王(クルカル王)のための金の井戸。ひとつはホルのラマ(ガルマク・ラマ)のための銅の井戸。ひとつはブルクマのためのトルコ石の井戸。ひとつはホルの鍛冶師(ヒミス)のための鉄の井戸だった。

 ケサルはそれらを古い履物や古い器などで汚した。そして彼は道の真ん中に大の字になった。

 最初、ホル王の水汲み女が井戸にやってきた。彼女は乞食(ケサル)を飛び越えなければならなかった。乞食が道をあけなかったからである。つぎにブルクマの水汲み女がやってきた。乞食は水を入れる壺に指輪を落とした。この指輪はブルクマが手を洗うときに、彼女の指にすっぽりとはまった。

ブルクマはリンの衣を着ると、目の前に進み出た乞食にリンの友や家族のことについてたずねた。乞食は、ケサルはもう死にました、とこたえ、その死を悼んでストゥーパが建てられたこと、ラマたちに報償が与えられたことなどを詳しく話した。

乞食はまた、彼女の父の遺骸が平原に取り残されたこと、そして母が托鉢をして回っていることも説明した。ブルクマはその話を聞いて心を痛めたが、この乞食がケサルであることを見破った。

 最後に、鍛冶師ヒミスの水汲みの女が井戸にやってきた。彼女は、馬に乗ってアサルサル峠を越えるときに見た男とこの乞食がおなじ人物であると認識した。そのときに彼が袖を振ると、ホル城が揺れた場面も目撃していた。

 ケサルは彼女に、自分の前に100匹の、後ろにも100匹のシラミがいると言った。砂漠の旅のあと村に出たので、うれしくて袖を振ったからだと、ケサルは説明した。彼はまた、自分はヒミスの息子であると主張した。しかしあとで井戸にやってきた鍛冶師本人はそれを否定する。

 

4 

 ある日鍛冶師の娘が豆畑に出ると、おなじ乞食が畑で豆を取っては食べ、食べたものを吐いているのを見かけた。彼女が父親に言いつけると、父親は巨大な金槌と火箸を持って畑にやってきた。しかし父親が畑に着く頃には、ケサルは畑を元の状態に戻していた。いや、元よりも美しくなっていた。父親は娘が嘘をついたのだと思い、怒って火箸で彼女の頬を裂き、巨大な金槌で彼女を叩いた。

 鍛冶師は乞食に言った。

「もしあんたがおれの息子だというのなら、100人の鍛冶師の道具から、おれの道具を選ぶことができるだろう」

 ケサル(乞食)は実際にたくさんの道具のなかからヒミスの道具を当てることができた。じつはアネ・クル・マンモが金の蝿に変身し、ヒミスの道具の上に止まって教えていたのである。

 アネ・クル・マンモの助言にしたがって、乞食の少年は言った。

「大きな金槌と大きな火箸がなくなっていますね」

 それは実際に起きていることだったので、ケサルは鍛冶師の息子として認められた。

 ある日、淑女(ジョジョ)ブルクマは金の装飾品を作らせるために鍛冶師のところにやってきた。新しい小僧がかっこうをつけて、彼女の前に出て、帽子を取った。このことは鍛冶師の親方に怒られたが、少年はリンでは白い布(カタ)をもらったら帽子を脱ぐのが礼儀であると主張した。

 そこには石炭が不足していたので、ケサルと娘は木炭を作るための木を集めに行かされた。しかしホル王所有の聖なる森には行くなと命じられていた。木を集めて戻る途中、小川を渡るときに彼は言った。

「(木炭を運ぶ)ロバの布靴(パプ)が濡れてしまうだろうから」

 そう言って彼は蹄を全部切ってしまった。また娘は父親のもとに走って言いつけた。しかし父親がやってくると、ロバはもとの状態に戻っていた。娘はまたも、厳しい罰を受けた。

 翌日、ブルクマが鍛冶師のところにやってきたが、ケサルは魔法を使って金の装飾品を紛失させた。そしてそれがブルクマの真下でみつかるようにした。彼はブルクマを指して「泥棒だ!」と叫んで騒ぎ立てた。

その態度があまりにも目に余るものだったので、ブルクマの下僕が思わずケサルの頭を叩くと、帽子が落ちた。すると額の上の徴(しるし。第三の眼)があらわになった。これによって少年がケサルであることがブルクマにはわかった。

ケサルは自分で金の装飾品を作れると言い、実際、すべての神々の助力を得て作った。

 

5 

 ブルクマとホル王は話し合い、ホル中のすべての勇士を呼び、有名な弓競技を競わせることにした。もし鍛冶師ヒミスの少年がこの弓を引くことができたなら、まちがいなく彼はケサルだろう。

鍛冶師ヒミスは、少年が競技に参加しないように、大量の矢尻を渡し、それを磨くようにと命じた。少年は、しかし、その作業を瞬時のうちに終わらせ、参加者が集う会場へ向かった。

そこでは大臣ソクグパ(九命)が、大麦一粒の幅の弓を引いていた。少年はその有名な矢がリンに運ばれ、ほかの弓が彼に与えられることを望んだ。ケサルはこうして弓を引き、放たれた矢はホルの勇士たちに刺さった。一方弓の糸はホル王の首に巻きつき、もう少しで絞め殺すところだった。ケサルだけが首にまきついた糸を取ることができた。

 翌日、大きな格闘技の大会が開かれた。最強の力士はソクグパ(九命)大臣だった。鍛冶師は少年に参加させないため、大量の針を渡し、磨くように命じた。しかし少年は瞬時のうちに作業をすませ、格闘技の会場へ行った。そして大臣と戦い、勝って彼を殺した。

 三日目、すべての人が集まって、駿馬クラ・メバル(Khula me ’bar)にだれが乗るだろうかと興味を持って見た。馬は巨大で、9スティラップの高さがあった。鍛冶師はまたも彼が参加できないようにと、家を見るよう命じた。少年は家ごと肩に担いで競技場へ行き、ここで家を見るだろうと言った。彼はその馬に乗り、空高く昇り、リンの地まで駆けていった。そこで通常の馬と乗り換え、もう一度空高く昇ると、今度は馬を落とした。馬は地面に激突してつぶれた。

 ホルのラマは夢を見た。王の死を暗示する夢とその他悲しいできごとの夢である。王とブルクマがその爪についてたずねる前に、リンのアグたちはスラス峠に着いていた。そしてアグ・パルレが矢を放つと、それはホル王の心の動脈(命根)である梁に当った。それを引きぬけるのは、若い鍛冶師(ケサル)だけだった。ケサルが矢を抜いたのは、ブルクマがホル王の死を祈ったあとだった。この矢は、ホルのすべての矢を壊したあと、パルレの矢筒に戻った。

 

6 

 ホル王はリンの軍隊が近づいているかどうかを知るために、スパイを送り込もうと思った。彼は鍛冶師の少年がとても気に入ったので、彼(ケサル)を送ることにした。鍛冶師の娘は王に警告しようとしたが、不名誉な行為であるとして、家に送り返された。

それゆえ彼女はケサルに、道の途上に白、赤、黒の祭壇があれば破壊せよ、と言った。というのもそれはラユル、バルツェン、ルユルの祭壇だからである。茶色(ムクポ)の祭壇があれば崇めよ、と言った。なぜならそれはホルの祭壇だからだ。 [訳注:ムクポは通常紫色、あるいは赤黒色と解せられる] 

 ケサルは言われたことと逆のことをした。

 ある地点は道がたいへん狭く、彼とともにやってきたホルの40人の兵士はうまく進むことができなかった。そのときケサルは自分を見えなくする帽子をかぶり、40人全員を川に落とした。

 7人のアグたちがスラルスラル峠に着いた。ケサルは手紙を彼の馬につけて彼らのもとに送った。彼は依然として姿を隠していたので、帽子の端、弓の底部、矢の刻み目だけがかろうじて見えた。

はじめに彼の姿を見たのはアグ・タバ・ミクギ(lTaba miggi 鋭い目をが知られるアグ)だったが、アグ・パルレは信じようとしなかった。ホルのスパイに対抗しようとゴンマ・ブツァ(Gongma butsha)を送ったとき、アグ・パルレもはじめてケサルを認めることになった。

ケサルは鳩に変身し、空を飛んだ。するとゴンマ・ブツァは鷹に変身し、そのあとを追って飛んで行った。突然ケサルはネズミに変身すると、地面の穴に入っていった。アグはイタチに変身し、あとを追って穴に入った。しかしゴンマ・ブツァはすっかり疲れはて、結局野営地に戻った。

 女のアグ、パルモイ・アタク(dPal mo’i a stag)はホルのスパイを探しに出た。ケサルが鹿に変身すると、アグは犬に変身してそのあとを追った。それからケサルが魚に変身して逃げると、アグはカワウソに変身してあとを追った。ケサルが山羊に変身すると、アグは狼に変身した。[註:似たモティーフはラダックの民間歌謡にも見られる] 

 アグの馬が疲れ果てて動けなくなったので、鞭打ったところ、彼女は投げ飛ばされてしまった。そこで彼女はほかのアグたちの助言に反してキャンゴ・ベルパに乗った。彼自身の馬に乗って彼女がやってきたので、ケサルは本来の姿に戻った。しかし彼女はまったく不機嫌で、彼が忘却のなかにいたとき、リンがきわめて困難な状況に陥ったことを責めるのだった。

 

7 

 ケサルはホル王のもとに戻った。そして彼は王に戦争に備えるように言った。パルレ、ガニ、ゴンマ・ブツァ、タバ・ミクギ・ラブ、ナユ・ナツェー、ダーポン・ゴンマ、パルモイ・アタクの7人のアグは、馬に乗り、多数の馬を後ろに率いたケサルの7日後に到着した。

 ホル王はこれらの馬を購入し、男たちを彼の家来にしたいと考えた。ブルクマは、この馬の隊商はリンの英雄たちだと教えたが、王は信じなかった。それゆえ彼は牢獄からアグ・アンガル・ツァンパを解放し、おなじ質問をした。アグがおなじ答えを返したところ、王は怒り、アグを鉄の檻にぶちこみ、その檻を城の後ろの崖に吊るした。ダーポン・ゴンマは縄を結わえた矢を放ち、アグを入れた檻が落下するとき、下でパルモイ・アタクが受け止めた。

 ブルクマは毒入りの麦酒を飲ませてアグたちを殺そうとした。しかしダーポン・ゴンマはそのことに気づき、矢を放って器ごと空に飛ばした。そのとき土の塊も空に飛び、空の一塊が地上に落ちてきた。 [註:それは酒が毒入りであることを示していた] 

 それからパルレ・ゴドポは、彼の武器を賞賛したあと、ブルクマを殺そうとした。しかし、3人のアグたちによって阻まれた。ブルクマは城に行き、起こったことすべてを王に話した。そして彼らはもう二度と城から出ないこと、鍛冶師の息子を城に入れないことを決めた。ゴンマ・ブツァは(おそらくもとはダーポン・ゴンマ)は、城の最上階にいたブルクマに、馬の毛を含むいろいろなものを集めて山積みするように言った。彼はその山積みになったものの中央に矢を放ち、それらすべてを破壊した。

 リンの英雄たちはホルのほとんどの兵士を殺した。若い鍛冶師(ケサル)は彼らと戦うため彼らのところに送られたが、もちろん偽戦士であり、手に持っているのは竹刀にすぎなかった。

 ケサルはアグたちをリンに帰した。彼はひとりでブルクマを取り返すつもりだと語りながら。

 

8 

 少年は鍛冶師のもとに帰り、そこで箱を作った。彼は跳んで箱の中に入ったり、箱から出たりを繰り返した。鍛冶師ヒミスはなぜそんなことをしているのかとたずねた。

少年がこたえるには、箱の中からだとラユル(神の国)とミユル(人の国)がよく見えるのだという。父親(ヒミス)は自分でたしかめようと思い、箱の中に入った。すると少年は外から鍵をかけ、箱の下で火をくべた。ヒミスが鉄の綱作りを手伝ってくれると約束してくれるまで、少年は彼を出そうとしなかった。その鉄の綱はホル城の屋上から垂らすという。

 ケサルは綱をホル城に運んだ。そしてそれを城の屋上に投げ上げた。鉄の鉤が屋上にはまり、ケサルは綱をたぐって壁を登った。壁の半ばまで登ったとき、ケサルは白い鳥と黒い鳥が戦っているさまを見た。白い鳥が負けて落下するとき、ケサルも巻き添えにして地面に落ちた。

アネ・クル・マンモは、鍛冶屋でのいくつかの「汚れ」がこの災難の原因であることを知っていた。彼女はケサルをきれいにし、もう一度壁を登らせた。今度はうまくいき、彼は屋上でたどりついた。そして猫とネズミを捕まえると、ホル王を眠らせないようにとそれらを寝室に送り込んだ。夜の間ずっとケサルは王の子供たちを針で刺しつづけ、このように家族全員を眠らせないようにした。

 翌朝、彼は指輪を落とし、それが自然とブルクマの指にはまるようにした。ブルクマはホル王を起こした。目覚めた王は、目の前にいたケサルと取っ組み合いをはじめることになった。

アネ・クル・マンモはブルクマに、固い豆をホル王の足元に、パンがゆ(ナリパクペ)をケサルの足元に撒くようにと言った。しかしブルクマは言われた通りにはしなかった。ブルクマはケサルの正式な妻ではあったが、ホル王の間には子供もできていた(つまり愛情が芽生えていた)のである。ブルクマは豆とパンがゆを混ぜあわせて抵抗したたが、クル・マンモはふたたびそれらを分けた。こうしてホル王は敗北した。

 ホル王は命だけは助けてくれ、そのためなら版図すべてをあげてもいい、とケサルに懇願した。ケサルは生かしておこうと一度は考えたが、アネ・クル・マンモがホルの犯した罪を思い出させた。結局毒のついたナイフでホル王を刺し殺した。

 ナイフが刺さったとき、彼の体から、ドクドクと大量の脂が流れ出た。その量たるやすさまじく、アネ・クル・マンモがすべての神々に助けを求めなければ、ケサルが溺れてもおかしくなかったほどである。

 城は壊され、すべての財宝が持ち去られたにもかかわらず、ホル王の子供たちはケサルとともに出ていくことはなかった。

 

9 

 ケサルとブルクマが岩の扉ツァウ・ドゥンドゥンに着いたとき、その扉を開けるにはふたりの子供の首が必要であったことを思い出した。彼は城に戻って子供たちの首を斬り、それらをポロの球のように門に向って投げた。すると扉は開き、ブルクマはほとんど気絶しそうだったが、ケサルとともに馬に乗って扉を通った。ブルクマはケサルとの間にはもう子供を作らない、と言った。彼女は以下のように罰せられた。

小人の地からリンまで彼女は馬の尾にくくりつけられ、引きずられていく。
今後3年間、すべての人の召使いとして過ごさなければならない。
3年間、彼女の髪に紫苜蓿(うまごやし)が植えられ、ゾ(ヤクと牛の中間種)によって耕される。
3年間城のなかで、膝に獣皮を巻き、奉仕する。
3年間、イシシャコ鳥に会合に参加しなければならない。
3年間、センティン鳥(太陽鳥?)の乳を搾らなければならない。

 このようにして15年が過ぎた。リン城を修理するのにもう1年必要だった。ブルクマは王妃としての地位を回復していた。彼らの結婚式が催され、それは三日三晩つづいた。彼らはこのうえなく幸せに暮らした。