古代シャンシュンの考古学的発見 

 世界にはさまざまな人々の古代史があり、石器時代もまた多様性に満ちている。これはシャンシュン国についても言えることで、古代文化の遺物、たとえばズィ(準貴石)はじつに多くのことを語ってくれる。とくに意義深いと思われるのは、われわれが1988年に発見したルトク地区の古代岩絵で、それは先史時代の人々の文化が存在したことを証明している。これらは学者によれば4万年前にアボリジニーが描いたというオーストラリアの岩絵とそっくりだ。

 ルトクの岩絵はアボリジニーとおなじような古代文化を持っていたかどうかはともかく、シャンシュンの起源が同様の太古か、相当に古いことを意味しているだろう。岩絵の題材としては、雄鹿、虎、その他の動物が好んで取り上げられる。そこから推測できるのは、彼らが野生の動物のハンターということだ。

しかしより詳しく見ると、彼らキュン・チェン(大いなるガルダ)、重いレスラー、スワスティカを好んでいることがわかる。それはつまり現実世界にひそむ力のさまざまな機能のシンボルとして、古代人によって描かれてきたということだ。

 この仮説は古代ボン教において、5つの元素が5つの動物によって表わされていたことをもとにしている。すなわち地は雪獅子によって、水は竜によって、火は鷲あるいはガルダによって、気(風)は虎によって、空は馬によって表わされたのだ。実際、最初の4つの動物は、ルンタと呼ばれる現在もチベット人のあいだで人気が高い祈祷旗の四隅に描かれている。そしてその中央には宝石で飾られた馬が描かれている。それは地、水、火、気の元素が機能するための基盤として活動する個々の意識の象徴なのだ。

 古代の元素は、教義の意味の基本的状態を指すのではなく、ダイナミックな力、エネルギーやそれぞれの元素の動きを表わした。こうした理由から5つの動物は、それによって表わされる動きの象徴として選ばれたのである。

 占星術においては、気の元素は木で表わされる。木は植物の成長を可能にさせることから動き、あるいはダイナミックな力を意味する。古代ボン教は気(風)の元素を虎によって表わすことを選んだ。というのも、動きの性質をもつ動物といわれる虎は、無数の木の集合体である森のなかに生き、動く動物だからである。

 同様に地の本質は岩、そして岩の本質は雪山と考えられる。このようにして、地の元素は雪を冠った峰々を棲家とする神秘的な雪獅子の像で表わされる。水のもっとも大きな鉢は海であり、水の元素を表わすのに竜が選ばれた。竜は海の底深くに棲むと大衆は考えるのだ。火の本質はワル(dbal)と呼ばれる炎で表わされる。キュン・チェンと呼ばれる神は赤々と燃える炎のなかに現れるので、炎の元素を表わすのにガルダが選ばれた。

 こうしたことからわれわれは、古代人によって描かれた岩絵は、古代ボン教の信仰の源と結びついた宗教的な意味合いと関連があるという仮説をたてたい。これらの絵のなかでもとくにスワスティカが、またその他の短い印のラインが何を表わすのか見ていきたい。不滅のボン、あるいはスワスティカのボン(ユンドゥン・ボン g.yung drung bon)の宗教のなかでは、こうしたものが鍵を握っているのだ。









ナムカイ・ノルブが発見したルトクの岩絵のガルダ。
4万年前の推定年代は信じがたい。



Photo by M. Miyamoto
スピティの岩絵のガルダ。形が全体的に似ている。
とくに尾の部分の三角形が両者に特徴的。
ルトクとスピティはさほど遠くなく、製作年代、
製作者はかなり近いか。