028−029
(ギャツァの横顔。メトラツェを直視せず)
「おれはたまたま親父にしたがってゴ部落に来ただけだが、放っておくわけにもいかないので……」
(メトラツェの顔。心の中で思う)
「ギャツァはきっといい人なのだわ。それをうまく表現できないだけで」
(背を向けたまましゃべるギャツァ)
「早く出て見たほうがいい。あんたが連れてきたヤクの様子がおかしいようだ」
「え?」
(草地。人々のなかに白ヤクと乳しぼりの女性)
(噂話をするおばさんたち)
「漢妃(ギャモ)にさえ乳を出せない乳牛なんて信じられないわ!」
「でもこの子はもともとリンの出じゃないし」
(乳搾りに悪戦苦闘する漢妃)
「どうしてこうなの?」
漢妃(ギャツァの母)
(汗を流す漢妃)
「こんなことはじめてだわ! 搾っても乳が出てこないなんて」
(メトラツェが近づいて声をかける)
「私がやってみましょうか?」
(漢妃ふりかえる。のぞきこむメトラツェ)
「ああ、あんたね。この牛、あんたじゃなきゃだめみたいね」
「安心してください。かわりましょう」
(背景黒。雷光。メトラツェ、ヤクをにらみつける)
「あんたはもうこの家の者! 何を考えているの!」
(ヤクを厳しくなじるメトラツェ)
「私をつれてきたのはあんたでしょ。どうしていうこと、聞かないの! 乳を出さなきゃ、焼いて食われるだけの話よ!」
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