第一書 根本医典（根本タントラ
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第1巻は、『四部医典』の第一書であることから根本医典と呼ばれる。主に医学上の基本的かつ重要なことを扱っている。総合基本の書と理解されることもある。
本書は５章から成る。冒頭の最初の章は序言であり、概論である。実際、チベット医薬学の起源などの重要課題からはじまっている。
西方極楽浄土の善見城（兜率天）の中央正面に無量宮があり、宮中の瑠璃宝座の上に瑠璃光薬師仏が坐している。その周囲には諸天神、諸仙人、また仏教徒、非仏教徒（外道）が坐している。天神には天王、帝釈、甘露天女が含まれている。仙人には火人、恒知人、持輪輻などが含まれている。仏教徒には文殊菩薩、観自在菩薩、阿弥陀菩薩、金剛手菩薩らが含まれている。非仏教徒の外道には、遍入天（ヴィシュヌ）、大天吉祥螺髻が含まれている。これらの衆はみな薬師瑠璃光仏の教えを拝聴し、医道を伝授された。
荘厳なる時間に医学が説かれたのは薬王城である。この城の四囲は４つの大山に囲まれている。これらの山は治療のための聖なる薬草に満ちている。
南のボギ山上は、辛、酸、塩味の薬草、すなわち胡椒、ザクロ、ヒハツ（胡椒に似た植物の実）などに満ち、それらは寒性の病気治療に用いられる。
北のガンギェル山上は、苦、渋味の薬草、すなわち竜脳、白檀などに満ち、それらは熱性の病気治療に用いられる。
東のシャンジ山上は、芳香の薬草、すなわちミロバランなど種類が豊富で、それらの性質や味もさまざまである。それらは骨、肉、筋、脈、内臓の病気に用いられる。
西のマラヤ山上は、宝石薬、五霊脂、鳥、獣類などのすぐれた薬が一通りそろっている。
チベット医薬学はこのように、重々しい雰囲気のなか、薬師瑠璃光仏から直接伝授されたものである。
第2章は縁起の章である。薬師瑠璃光仏が説かれる内容をあきらかにし、その概括を加える。説教の様式は、ブッダの心から生まれた明智仙人が、もうひとりの化身の仙人と問答を行うというもの。その解説は医学全体に及んでいる。
ブッダの化身は学習すべきことを８つの「科」、１１の「点」、１５の「会」に分類する。８つの「科」には生理、小児科、邪魔（一種の精神病）科、外傷科、毒物科、回春科、滋養科が含まれる。１１の「点」には根本精髄点、身体形成点、虚実病点、行業生活点、栄養飲食点、薬物方剤点、機械治療点、無病正常人体点、弁認疾病点、保養法則点、行医道徳点が含まれる。１５の「会」にはルン（rlung）、ティパ（mkhris pa）、ベケン（bad kan）のほか、熱病、上半身病症、内臓病、生殖器病、皮膚病、小児疾病、婦人科疾病、妖魔疾病、外傷疾病、毒物疾病、長寿科などが含まれる。
第3章では、人体の正常な状態と病気にかかったあとの状態について説明する。このときチベット医学の医師は樹木を用いて人体を表す。人体の樹木は、二つの枝付き樹幹で表される。ひとつの樹幹は正常な生理状態の人体を表し、もうひとつの樹幹は病気にかかった状態の人体を表す。樹幹の上のほうで分かれ、生理幹がまた分かれている。それが人体の正常な３つの要素、ルン、ティパ、ベケンを表す。それぞれの枝は５枚の葉を持つ。つまり５つの要素があることを示す。合計して１５枚の葉があることになる。
この幹には７種類の生理物質がある。それは食物エッセンス、血、肉、脂肪、骨、髄、精液である。そして３種の排泄物が加わる。すなわち尿、汗、糞便。合計して２５枚の葉によって人体の状態が表される。
病理樹幹のほうも同様に枝分かれしていて、そこから葉が出ている。それらがルン、ティパ、ベケンの場合の病状を表している。
またこの２つの大樹を用いて疾病にたいする診断方法を示している。また日常生活における起居、飲食、栄養の種類を示している。
それらはまた内科治療、外科治療、食餌療法などの治療方法を示している。
このようにチベット医は３つの大樹を用いてチベット医学の内容を象徴として示している。この方法は世界の伝統医学を見回しても稀有な、民族色の濃いものといえる。この３つの大樹は９本の樹幹、４７本の枝、２２４の葉を含んでいる。
このほか２つの花、２つの果実は幸福、長寿、健康、富を表している。
第4章では、症状の見分け方について討議する。すなわち診断法。おもにルン、ティパ、ベケンの病気になったとき、その病状についてよく聞き、脈を調べ、舌や尿をチェックする。これらのやりかたを簡単に、要点をとらえて紹介する。
第5章では、疾病の治療法について解説する。ルン、ティパ、ベケンの治療法について述べ、薬の味や薬の具体例を列挙する。起居や飲食の注意事項も付加する。
最後の章はこれまでの５章をまとめ、結びを付け加えたもの。樹根、樹幹、枝、葉、さらに樹上の花と果実のたとえを用いる。この果実には富や修行、精神的に得た成果が含まれる。