ミケロの旅日記
7月26日 痛恨! 刺青ばあさんを泣かせてしまった
竜元村の倉庫群(1996年)と家・倉庫(2011年)。それほど変わらないが、家の数が飛躍的に増えた。
(1)恥ずかしのトイレ落下事件
竜元村の域内に入っても、そこが昔来た場所とはどうしても思えなかった。あまりにも変わっていたのである。以前は、山の中の小道を歩き、森から抜け出たところに数軒の粗末な家屋が点在しているだけだった。翻って現在、トラックも通れる道路を歩き、村に入ると左右に家や商店が並んでいた。ごくありきたりの村である。
最初の建物は比較的新しくてきれいな公衆トイレだった。雲南の田舎で何百と見てきたタイプのトイレである。ひどいトイレになると便所壺に何万という蛆虫がうごめき、波打っていることがあった。そのうちの何十匹かがのそりのそりと近づいてきてシューズに這い上がろうとするので、たとえ便秘気味でも長居は禁物だった。
このトイレははるかにマシで、糞尿が下(おそらく河原)に落下する仕組みになっているので蛆虫は少なかった。まったくいないわけではなく、なぜか数匹の蛆虫が足元を這っていた。またこういうトイレにはきまって壺に落下しそこねた糞のかたまりが足を置くところに積もっていた。夜、明かりもなしに用を足したとき、目標を誤ったのだろうか。
竜元では昔、トイレでひどい目にあった。初日の朝、小雨が降る中茂みの中で用を足したところ、からだがかなり濡れてしまった。それで二日目、小屋のようなトイレがあることを教えられたので、それを利用することにした。人の少ないところでは野グソが普通だろうが、雨がかなり降っていたのだ。
小屋の中には大きなため池のような円形の糞尿プールがあり、その上に真っ二つに割った丸太が=字状に置かれていた。丸太を見たときいやな予感がした。腐っているような気がしたのだ。そろそろと両足を丸太の上にのせ、「大丈夫だ」と思ってしゃがもうとしたそのとき、バキッという音とともにわが体は深い糞尿プールに落ち、沈んだ。おそらくはじめてプールに落とされた子供みたいに水の中で暴れたにちがいない。気がついたら糞尿プールから脱出していたのだが、体の半分はびっしょり濡れていた。肥溜めに落ちたことがある人なんてIT社会のいま、ほとんどいないだろう。それはある意味貴重な経験といえばいえなくもないのだけれど、いまも心の中の傷はかすかにうずいているのだ。
1996年、宿泊した竜元村の旅社は独竜江上流域で唯一の宿泊施設だった。かなり老朽化していて、雨が降ると天井からぽたぽたと雨水が滴った。ベッドは七つあったので、私と同行していた三宅さんは雨漏りの被害のないベッドを選んで寝袋を広げた。寝袋にもぐりこんでいると外では雨の激しさが増し、それにつれて頭にたくさんの水滴が落ちてきたので、ほかのベッドに移った。
今回は売店の横に宿泊スペースがあったので、そこに泊まった。これがちゃんとした旅社といえるのかどうかはわからないが(写真を見ると「歓迎住宿」と書いてある)ホテルらしいホテルのない地域では、国内旅行客はこういうところに宿泊するのだろう。二十年前にマウンテンバイクに乗って中国西南を旅していたときは、こんな旅社か一般の家かよくわからないところによく泊まっていたことを思い出した。当時、知らない村に着いたとき、「旅社はあるか」と地元の人に聞くと、だれかがこんな場所に案内してくれたものだった。客室というよりだれかの(その家の息子や娘の)部屋であることさえあった。