タロット神秘史 

ド・ジェブランのイラストレーション 

 

 ド・ジェブランは彼のテクストにあわせて、マドモアゼル・リノーテとして知られる挿絵画家にトランプの彫版を作るよう依頼した。それがタロットの代表的な図案となるはずだと彼は感じていた。これらのイラストレーションは図5から図10で、「モンド・プリミティフ」第8巻に掲載された。

 挿絵画家の個性に任せるとしながらも、これらの図案は基本的にマルセイユのタロットの切り札と同じであった。しかしド・ジェブランはテーマに則したものをベースとしたかったので、マルセイユのタロットとは同じ順序にならないようにした。たとえばプレートW上で、教皇(X)のペアの相手は女教皇(U)とした。(図6)

 プレートX上には4つの徳(枢要徳)を集めた。(図7)

 そしてプレートZに、死(]V)や塔(]Y)のような人生の厳しい現実の図案のカードを、悪魔(]X)、また運命の不合理な輪(])とともに置いた。(図9) 最後に、プレート[(図10)上に、4つのエース(剣、杯、コイン、クラブ)とともに2つの切り札、審判(]])と世界(]]T)があり、4つのマイナーな組札を代表している。ここでは世界カード上に、4つのクリーチャー(架空の生き物)を登場させている。

 ド・ジェブランはそれらを四季、およびタロットの4つのマイナーな組札と同等とみなしている。順序は変わっているが、切り札の数字は、節制(通常は]W)と死(]V)を除くと(両者とも]Vになっているが、あきらかなミス)、マルセイユと同じである。

 もうひとつの違いは、ほとんどの人物が左右逆になっていることだ。数字そのものは逆になることはなく、あとで印刷されたものに加えられているようだが、順序や右から左へ読むようになっているなど、ほとんどが逆になっている。

 教皇(X、図6)を見ればわかるように、習慣的な右手のかわりに左手で祝福のしるしを表している。奇妙なことに、3つの像は逆になっていない。それは運の輪(])と死(]V、図9)、吊るされた男(]U、図7)であっる。

 しかしながら、マルセイユのタロットの像と違って吊るされた男は右隅が上げられ、片足で立っているように描かれている。というのも、古典的な哲学には4つの徳(枢要徳)、つまり節制、強さ(通常は勇気)、正義、知恵があり、切り札には4つのうち3つ、すなわち節制(]W)、強さ(勇気、]T)、正義([)しか描かれていないと理解されていたからである。

 ド・ジェブランは吊るされた男(]U)はもともと蛇を避けるために慎重に片足で立ち、知恵(知慮)を表していたが、失われた徳に変わった。それゆえこのカードにはほかの徳である節制、強さ(勇気)、正義が付け加えられた。(図7) このカードが長年にわたって無知のさかさまを表し、蛇が縄に変えられていたのも理由があったのだ。

 またしてもド・ジェブランの歴史上の仮説は間違っていた。もっとも古い切り札には、吊るされた男はマルセイユのタロットのように、片足を上げている姿が描かれていた。(図11) 

 もっとも古いタロット・カードや15世紀の文学のなかで彼には「反逆者」という肩書が付けられた。ルネッサンスのイタリアでは、片足で吊り下げるのは反逆者への刑罰であり、だれもがそれと関連づけた。しかし18世紀のフランスでは、意味が明確ではなかった。あとで見るように、徳の知恵が切り札に描かれなかったのは寓喩を理解するのに鍵となる重要なことだったからである。しかしド・ジェブランの解決法は簡単で明確なものだった。

 タロットはエジプトから来たという先入観のために、ド・ジェブランは愚者(0)を変えている。(図5) マルセイユのタロットでは、愚者は犬に追われている。ここでは画家が動物を描いているが、犬というより猫である。というのもド・ジェブランが主張するところによれば、もともと虎によって追われている様子が描かれていたからだという。あきらかにエジプトに虎がいないことを彼は知らなかった。

 ほかのカードでは、彼は名前をエジプトふうに変えている。チャリオットを駆る人(Z、図6)はオシリス、悪魔(]X、図9)はテュポン(セト神のギリシア語読み。エジプト史縄ではオシリスの敵)となった。星(]Z、図8)は犬星になった。彼が言うには、カードの中央で大きな星のまわりを7つの小さな星が囲っているが、それは古代占星術の7つの惑星、月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星を表していた。

 ド・ジェブランはとくにキリスト教の像の説明はしたがり、女教皇(U)を高位の女祭司に、教皇(X)を高位の祭司、あるいはヒエロファント(秘儀の祭司)に変えた。これらがウェイト・スミス・タロットカードの各肩書の原型である。








 図5 

 図6 

 図7 

 図8 

 図9 

 図10 

 図11