内丹史
第1章 概説
1内丹の丹
丹とは
内丹は中国道教特有の生命煉養理論であり、実践体系である。内丹を理解するためには、まず「丹」の意味を理解しなければならない。
中国古典化学と伝統医学の中では、「丹」は精製された薬のことを指している。多くは粉末状であり、顆粒状のものもある。一般的に言えばいわゆる「丹」は、水銀や硫黄などを含む化合物に特殊加工を施して昇華したもの、あるいは溶解させて精錬したものを指す。外服と内服の二種類がある。
「丹」という言葉のもっとも早い用例は「丹砂」つまり天然の硫化水銀である。中国古代でもっとも有名な煉丹家、西晋の葛洪は『抱朴子』内篇の中で指摘している。「丹砂、これを焼き、水銀となす。重ねて変じてまた丹砂と成す」。この過程において天然の硫化水銀に熱を加えて分解し、水銀を作る。水銀と硫黄の作用によって硫化水銀を生成する。このとき硫化水銀は黒色。すなわちいわゆる黒砂。そのあとふたたび過熱すると、赤色に変じる。この種の赤い丹砂はたんに丹とも、また辰砂、朱砂とも呼ばれる。中国古代の煉丹術においてもっとも重要な材料である。前漢の時代に、方士李少君は長寿を願う漢武帝に『長生不死方』またの名『祠竈法』を献じた。その内容は「祠竈はすなわち致物である。致物は丹砂でそれは化して黄金となる。黄金はもって飲食の器となり、すなわち益寿となる。益寿によって海中の蓬莱の仙人と会うことができる」。漢武帝は李少君の建議を受け入れた。「天子は親しく祠竈を始めるにおいて方士を入海させて蓬莱を求める。丹砂より諸薬剤から黄金を成す」(『史記』封禅書)
おおよそ李少君より始まった。丹砂の化学的性質の普遍性によることは、方士も煉丹家も認めている。ならびにその薬性はますます神化する。葛洪は丹砂を「これを焼くに時間を要し、変化は妙なるものである」と認めている。これを服するによく「人の身体を煉ることで、人を不老不死に至らせる」。(『抱朴子』金丹)唐代道教の煉丹家陳少微はさらに言う。「ゆえに丹砂は金火の精を結んで成したものである。玄元(天地万物本源の道)は清く正しい真気を含む。これは環丹の基本であり、大薬の根源である」(『大洞煉真宝経修伏霊砂妙訣』)
道教煉丹術の「丹」はのちに丹砂以外も指すようになった。煉丹士らは酸化水銀や鉛丹などを含む外から見ると赤い焼煉の産物を称して「丹」とみなすようになった。葛洪は指摘する。「鉛の性質は白色で、これを赤くすると丹となる。丹の性質は赤色で、これを白くすることによって鉛が生じる」(『抱朴子』内篇・金丹)これは白色の鉛が焼煉することで化学作用により変じて赤い四酸化三鉛となり、逆に赤い四酸化三鉛は還元して白色の鉛となることもある。
(つづく)