ニエリカとは

 ニエリカ(nierika)とは、メキシコ・ウイチョル族(Huichol)がスピリチュアルな世界へ通じる境界域を呼ぶことばである。白人でありながらマラアカメ(ウイチョル族のシャーマン)になったプレム・ダスは「光り輝く渦巻き状のトンネル」と表現している。(Joan Halifax 'Shamanic Voices'

 プレム・ダスはウイチョル族の宇宙開闢神話を語る。

「原初の頃、太陽(タヤウパ)は新しい世界が出現する夢を見たので、それを探すようカウヤマリ(小さな鹿の精霊)に命じた。光り輝く渦巻き状のトンネル、すなわちニエリカがどこにあるか、太陽に教えられていたので、カウヤマリは難なく通路を見つけることができた。彼はタテワリ(大いなる祖父の火、シャーマンの先祖)やあまたのウルカテ(精霊)を引きつれ、ニエリカを通ってエリエパ、すなわちこの世に着いた。彼らは山や川、植物、動物、男や女を造った。

「最初の人々は人間だったが、同時に神でもあった。彼らはニエリカを通って自由にこの世と天上世界を行き来することができた」。

 プレム・ダスはさらにマラアカメ(シャーマン)にとってのニエリカに言及する。

「マラアカメはタバコの煙のように、ニエリカを通ることができる。見えない潮のようなものが彼をあらゆる方向へ瞬時に移動させるのだ。あなたのタバコの煙と私のタバコの煙が混じりあうように、マラアカメも潮に乗って流れると、ほかの潮と混じりあうだろう。このほかの潮こそウルカテ(精霊)である。(……)しかしニエリカを通ってこの世に、家族のもとに帰ってきたとき、彼はウルカテのこともその世界のこともほとんど覚えていない。わずかにそのすばらしい旅の光の残滓があるにすぎない」。

1

2

3

4

5


ニエリカを描いたマンダラ状の刺繍絵。聖なる環はペヨーテ(幻覚作用をもたらすサボテン)やトウモロコシ、雨蛇の姿をとった生命を与える聖なる水を表している。左上と右下の隅は聖なる鹿の角であり、それらはペヨーテであり、トウモロコシでもある。右上と左下の隅は蟻が女神ニウェツィカからトウモロコシを盗んでいる神話の場面を描く。


ペヨーテ(サボテン=聖なる鹿)のまわりを足跡がめぐる。ウィリクタ(聖地)の砂漠の中を歩いてペヨーテを探す、巡礼の旅を描いている。先祖の霊を呼び、一緒に踊ったあと、涙の別れ。


中央のペヨーテは世界の中心である。そのまわり、あるいは四隅に、宇宙の四つの方向を示すペヨーテが現れる。動物霊や祖先霊のほか、さまざまなエントプティック(entoptic phenomenon 内視現象と訳されるが、LSDなどの幻覚作用によって見える記号やシンボルをとくに指すので、内視幻とでも呼ぼう)な記号が見える。


ラモン・メディナの描いたニエリカ。魂が死者の村に到着したところ。生前の性生活を示すため、男の魂は女のヴァギナを、女の魂は男のペニスを運ぶ。彼らはそれらを生命の木に投げつけ、熟して発酵した木の実を落とし、祖先に食べさせるとともに、彼ら自身の到着を祝うことになる。旺盛な性生活、祖先を祀ることが、現世の生活でもっとも大切なことである。


このニエリカは、火山が噴火したとき、太陽がいかにしてこの世にやってきたかを歌ったシャーマンの歌を描いたもの。右上は太陽の地下の道。祈祷用の矢が仕切り、足跡が道を示す。左下に輝くのは父なる太陽。それを送り出すのは火の神にして最初のシャーマンにして祖父なる火、そしてそれを助ける文化英雄にして鹿人のカウユマリ。右下から中央上に向かう帯は太陽の道。