オカルト・アメリカ
第4章 正しい思考の科学
心には己の場所がある。そして心は自らのうちに
地獄から天国をつくり、また天国から地獄をつくりだす
――ジョン・ミルトン 『失楽園』
クリスマス・シーズンのもっとも寒い日、それはワトルズの家ではじまった。インディアナの1896年の冬、家長でもあった、貧者を守るキリストの情熱を持ち合わせた、熊手のように細長いメソジスト派の牧師ウォレスは、家から遠く離れたシカゴで開催中の社会改革会議に参加していた。キリスト教社会主義者のウォレス・D・ワトルズはより保守的な聖職者メンバーにいらだっていた。彼らはワトルズが免職される様子をただ眺めていた。
インディアナ州ラポルテの家に戻ったが、お金がなくて、クリスマスツリーもなかった。あるものすべてをかき集めて、常盤(ときわ)木の枝をよごれた獣脂ロウソクで飾り、ポップコーンを数珠なりに張るのがやっとだった。贈り物もささやかなものだった。クリスマスのために蓄えたお金をすべて使ってカフ・ボックスを購入した。ワトルズ一家はそれを枝の下に置いて一日父の帰りを待っていた。
「かなり遅くにお父さんは帰ってきました」と娘のフローレンスはのちに振り返った。「とても美しい笑みをうかべてお父さんはクリスマスツリーをほめたたえました。そしてこのカフ・ボックスはずっとほしかったものだと言いました。お父さんはみなを腕の中に抱いて、イエスの言葉を語ってくれました」
その日はワトルズ一家にとってターニングポイントとなった。シカゴでは彼はジョージ・D・ヘロンという名の革新的な牧師と会っていた。社会主義的福音書の熱心な宣教者として、ヘロンは子供たちをコットン工場で働かせる経済システムの残酷な仕組みを、キリストのメッセージを使って批判し、国家的な名声を得ていた。彼はワトルズに、社会の公正さに対してキリストのヴィジョンを示すのは、牧師の役目の中心をなすものだと言った。
ワトルズにとって自分自身を成長させていく精神哲学は、いわば最後の当たりくじのようなものだった。彼はすでに、まわりに泡のように出てくる物質的でない思考を自らのものにしていた。そしてそれらを自身の思考の試みと組み合わせて、人間の心の創造的パワーに変えていた。ワトルズが人間の心を見ると、人は外的状況の囚人だった。そしてある程度は内なる状況の囚人だった。
心を解放せよ、と彼は結論の言葉を発した。それでも外的状況はつづくだろう。もし心を――取り巻く世界を造形するこの魔術的でエーテル状の考える装置を――うまくつなぐことができるなら、人はどんなものでも達成できるにちがいない。