オカルト・アメリカ
第7章 秘密の教えの帰還
この家で私はたまたまコルネリウス・アグリッパの大著を見つけた。私は何気なく書物を開いたのだが、彼が証明しようとしている理論や叙述するすばらしい内容を知って、私の心はしだいに熱狂を帯びていった。新しい光が私の心に射しこんできたのだ。喜びに小躍りしながら、私は自分の発見を(父に)伝えた。
――メアリー・シェリー 『フランケンシュタイン』
参考図書館の司書は、射抜くような眼光を持ったボサボサの髪の不格好な若者に見慣れていた。毎日彼はニューヨーク公立図書館のがらんとした閲覧室に入り、ほとんど誰も閲覧しない本を請求した。秘教的伝説、ユダヤのカバラー思想、ヘレニズムの神話学、ピタゴラス数学、パピルス写本といった本である。日々彼は静かに坐り、興味深い巻を時計のような正確さで組み合わせた。
1920年代半ば、つまり「大利益(ビッグ・マネー)」と密造のジンとチャールストンの時代、早熟の25歳の若者は悦楽にはほとんど興味がなかった。このときどき銀行員をしていたアマチュアの学者は、むしろ重要な任務を遂行中だった。倫理的に最底辺に落ちようとしていると彼が信じていた世界において、古代の智慧の教えを愚昧から守るというのが任務だった。
彼はマンリー・P・ホールという威厳のある名を名乗った。多くの人からすれば、古代の大型本に取り組むこの若者は、図書館の大きな扉をあけて毎日入ってくる少し奇妙なもうひとりの利用客にしか見えなかっただろうが、彼がその日選んだ本から、現代の歴史において、秘教的な伝説と文学のもっとも尋常でない、成し遂げられた研究のひとつが生まれようとしていたのだ。