オカルト・アメリカ 

9章 われらのなかの大師(マスター) 

 

われらの友愛会に関して出版されたもの、だれにも知られているものが何であれ……それをだれも軽々しく扱うことはできない。偶像や作られたものとみなすことはできない。たんなる個人的な見解として捨て去ることはできない。

――薔薇十字会マニフェスト 1615 

 

 何か月にもわたって、モンタナ州ヘレナのユニティ形而上学センターにおいて、はるか遠くインドで何世紀も生きた師たちの驚くべき奇跡について話し合われた。多くの人が『はるか東の大師(マスター)たちの生涯と教え』という題の本から聖なる存在についてもっと知りたいと願った。彼らの好奇心の対象は謎めいた作者に向かった。大胆で、専門家に見えるベアード・T・スポールディングは、アイビーリーグの大学のために、形而上学的調査を行う探検を地球の反対側で実施した。

 「こんなにもたくさんのヘレナの人々がさまざまな仮説や熱い論争をテーマとする本を読んでいます」とヘレナ・デイリー・インディペンダント(1931年3月)はレポートしている。それは教師にポジティブ・シンキングを、町の最古参に形而上学を教えていたスミス大学のルース・E・チューが「5つの四旬節の講義」のために選んだものだった。「喜びのダイエット」という著書で全米から少しの間注目を集めた、生まれながらのニューヨーカーであるチューは、スポールディングの旅についての講義をしたことで、彼から個人的に祝福された。

 彼女の聴衆は夢想的なカリフォルニアンでもなければ、アヴァンギャルドのニューヨーカーでもなかった。彼らはスポルディングの主張、すなわちヒマラヤには愛、自己覚醒、人間の潜在力の福音を説く不死の賢者が住んでいるという言葉に魅せられた精神的に好奇心が旺盛な民衆なのである。

 講義シリーズはとても人気があったので、2、3年のうちにスポールディング自身が町に来て話をするようになった。二晩、大衆がユニティ・センターに押し寄せてしまったため、近くのバプティスト教会の大講堂に大師(マスター)のメッセンジャー(スポールディング)を迎えなければならなかった。

 1924年、カリフォルニア鉄道王の妻も援助によって千部の私家版が印刷されたあと、スポールディングの本は何万部も売れることになった。あのあと何年かのうちに100万部を超える部数が売れることになった。ニューエイジのスピリチュアリズムというテーマはこうして大衆人気を得たのである。

 大師(マスター)たちはすべての宗教はひとつだと説いた。「死すべき運命の人の思考」の外側に地獄はない、そして「キリスト意識」の種子はすべての人のなかに存在するとも主張した。

 スポールディングは第
1巻を出版した3年後、人気の高い第2巻を上梓した。そのなかで彼はイエス・キリスト自身と対話をしている。スポールディングが述べるところによれば、イエスはインドで成就者として学んだという。インドではごく普通の男の姿をして、仲間の大師(マスター)たちと暮らした。しかし「肉体に関して言えば、半透明だった」という。

 キリスト教の地獄の業火のなかで育った信奉者や英国国教会(アングリカン)の信仰の形式主義のなかで生きてきた者にとって、あるいはインドやチベットのようなはるか遠い地が魔法のようで、ネバーランドに見える者にとって、スポールディングの本は魂を高揚させる解放の書だった。スポールディングが引き寄せた神智学もほかの神秘思想やオカルト思想も聞いたことがない人々の何千もの手から手へと本は渡った。そして彼らは新約聖書を手に持ってそれらのある場所へやってきたのである。