*マパにはむかしふたりのハワがいた。アンニ・マッホンが憑くタンジン・ジャブ(rTa 'grin skyabs)とアンニ・サーロンが憑くダルジェ(Dar rgyal)である。かれらの動きはとてもきれいだった。解放後捕えられ、拘束されていたが、信仰の自由が認められた頃、両者とも亡くなった。タンジン・ジャブの息子が偽ハワを演じるなどしてきたが、現時点では本物のハワは現れていない。アンニ・ワゾン神のところへ行き、神の降臨を願ったが、願いは叶えられていない。ここではマパの幹線道路の向こう側ラツァ部落(Ri rtsa)のハワについて記そう。
シャウ・ツェラン(Sha bo tshe ring)
マパ・ラツァ。33歳。農民。
ゾンカル活仏(rDzong dkar)がマパのチョルテンを訪ねたとき、シャウ・ツェランの神の扉があいた。そして1986年、セチュ活仏(bSer khri)がハゴシを行なった。このときソグルなどと同様、村中の若者があつめられ、四人が神がかりの状態になったが、他の三人にかかった神は黒い神だった。
その前のハワは、ハべ (Lha bhe)という。七八歳で健在だが、文革が終わったときから神がかりしなくなった。
なくし物について、あるいは病気のことを相談されると、神が憑依する。
正月一日、ゴモルラン神(Gos mo'i ri ling)が憑依し、五台山の算術(chu rtsis)が提示される。今年の作物や健康についての算術をする。
ルロル祭六月二三日午後三時頃、憑依する神はシャンヒャムバリ・チェジュ・ジャウ(Byang sham bha la'i phrul gyi rgyal bo)。
憑依時の感覚。「神が入るとき、胸がふたつに裂かれ、なかから血が噴き出してくるような感じがします。それから記憶がなくなるのです」。
ロンウ活仏を訪ね、自分の感覚について話したあと、憑依の感覚とお告げのしかたが若干変わったという。
お告げのときのしゃべり方は腹話術的。こういうしゃべり方のハワはレコンでただひとりだろう。文語が多いので、一般人には理解しがたいという。つぎに示すのは一九九八年のルロル祭のときの神語。
●神語
① わたしのラマ(導師)はパドマサンバヴァとジャンゴン・ツォチャ・ロンチュ(sKyabs 'gon tshogs drag rang grol)、そしてラマ・ゾンカル・マヌ(bLa ma rDzong dkar ma ni)であ る。ラマの方々はわが頭に御手をおのせになり、赤い護身結をわが首におかけになり、甘露をわが口に含ませられ、訓戒を賜わって、管理をお任せになられた。わたしは言いつけを守ってきた。ああ、暗愚なる人間たちよ。おまえたちの声が稲光のごとく光ったので、わたしは人間界にやってきた。いったいなにが望みなのか。
②(ある老婆にたいして)年寄りのひとたちよ、あなたたちはこの世に生まれ、たくさんの苦労を重ねてきた。しかし死は避けることができないのだから、経典はなるたけ読んだほうがいい。経典ほど役に立つものはないのだ。わたしは神であるから死ぬことはないが、一日で鉄製の靴をつぶしてしまう(それほど多忙だ)。一日で鉄製の服が破れてしまう。だがだれ が不平を言うだろうか。