レチュンパ伝
第1章 レチュンパ、ミラレパと出会う
チベットのもっとも偉大な聖者のひとり、ミラレパは、グル(導師)とイダム(瞑想する者を導く守護神)から、二人の偉大な弟子――ひとりは太陽のような、もうひとりは月のような――を持つことになるだろうという予言を受け取った。太陽のような弟子はガムポパであり、そして月のような弟子はレチュンパである。
レチュンパの伝記からわかることは、彼が知性のある人物で、多大な信仰心を持ち、仏教の道に身をささげたことである。しかしながら、いつも信仰心を失わなかったわけではなかった。伝記によると、彼は、あるときはグルのミラレパに対する崇拝の気持ちでいっぱいだったが、そのほかのときは信仰心が揺れ動いた。最後には、レチュンパの信仰心は堅固なものとなり、修行の果実を会得することができた。彼は仏性を獲得することができた。それは臨終のときに自然のままの身体に変容し、あとに何も残さなかったことから証明された。
ナムタル(聖なる伝記)はヴァジュラヤーナ(金剛乗)仏教の伝統の一部である。それらは本質的に覚醒した人物がいかにして仏道に入ったか、いかに実践修行を重ねたか、いかにして仏性を獲得したかについて述べた伝記である。このレチュンパの伝記が人にインスピレーションを与えるのはまちがいない。人がとても知的であるとき、できることが何であるかを示し、人が努力しないとき何が起きるか、また人が相当に努力したとき人がいかに進歩することができるかについて教えてくれるのだ。
レチュンパのナムタルは、3部から成るきわめて長い伝記である。第1部は短く、レチュンパの前世を扱っている。第2部は10章から成り、レチュンパの実際の生涯について書かれている。第3部も短く、後世の転生を描いている。この本でわれわれが示すのは彼の生涯――とりわけカギュ派の創立時のこと――が描かれた第2部である。
(つづく)