暗闇の象
インド人たちは見世物にするため象を暗い家の中に運び込んだ。
群集は争って象を見ようと暗闇に押しかけた。
しかし暗すぎて見えないので、みな手で触るしかなかった。
ひとりは牙に触った。
「この生き物は噴水孔のようだ」と言った。
ひとりは耳に触れた。あきらかに扇だった。
ひとりは脚をさすった。
「象の形をした柱のようだ」と彼は言った。
ひとりは背中を撫でた。
「たしかにこの象は玉座のようだ」と言った。
感覚器官の目は手のひらのようなもの。
手のひらは動物の全体をとらえることができない。
海の目。
泡。
泡をなすがままにさせよ。
海の目でそれをじっと見つめよ。
昼も夜も泡の粒は海から飛び出す。
なんと驚くべきこと。
見よ、海ではなく泡を。
われらは猛然と進む船のよう。
われらの目は鈍り、何も見えないが
それでも澄み切った海原を走りつづける。