第四章
賢い鹿の物語
むかしむかし(Budi suma bundi)、甥(saalanaskshye)と叔父(bagra)がブンディ村(Bundi)のウンサルガタ集落(Unsargata)の真ん中、一対の胡桃の樹と休憩所の近くに住んでいた。ある日村の外で狩猟について話し合っていると、ブンディ村の上方のヤルパカーヤール(Yarpakaayaar)にマリシンゲ鹿(Malisinge)がいるのが眼に入った。甥は叔父にこの鹿を追いかけてはどうかと提案した。彼らは食料や寝具をもって胡桃の樹や休憩所の上方を上がって行った。リミナダン(Rhimyinadan)に達すると、狩りの成功を祈って石の上に旗をたてた。弓矢を持って彼らは長い徒歩のあとパパカーヤル(papakaayar)に着いた。そこからヤラパン・カーヤル(Yarapan kaayar)にいる鹿が見えた。鹿を追いながら彼らはヒャマンダイ(Hyamandayi)やコガチャラクティ(Kogachyarakuti)などを過ぎ、クシェトゥ(Kshyetwu)すなわちチュティヤーレク(Chtiyaalek)の下のダガーヤル(Dagaayar)に着いた。そこのシャンビンク(Syanbinku)寺院で一対の旗を捧げた。さらに白石のシヴァ・リングを立て、籾米を撒いて祈った。彼らはダガーヤルを出発し、ガブリャーンガ村(Gabryaanga)のカルジャグンカー(Karjagunkhaa)寺院に着いた。
鹿を追ってアピヤラーガラ(Apiyalaaghara)に着くと、ヤンラーダラ神(Yanlaadhara)が鹿を匿っていた。彼らは神に対し言った。
「神よ! 金を捧げますので、鹿をください」。
すると神は鹿を放った。彼らは鹿を追いかけてカリナディ川(Kalinadi)とパーラ川(Paala)が交わるコサダティ(Khosadhati)、さらにブスリャーラー(Busryaalaa)、すなわち肉がさばかれる岩を過ぎ、パーラン(Paalan)に着いた。彼らはまた鹿を追ってティンタラウン(Tintharaun)の聖なる粉引き水車を過ぎ、ブスリャーラーに至り、草刈りをするブディ(Budi)村の少女に会った。彼らはそこで矢を放ち、マリシンゲ鹿を射殺した。彼らはまず皮をはぎ、肝臓を取り出し、切り刻むと、胡麻やチリとでよくかきまぜた。それらはその場にいた人々に分配された。彼らは少女に言った。
「少女よ! チリを混ぜた肝臓ほどおいしいものはないだろう」。
「甥と叔父のふたかた! もしこの肝臓が金の口、銀の肢体、貝の角、青い目をもつバンダウチャンティ山(Bamdauchanthi)に住むランカン・シビュ(Rankan syibyu)という名前の鹿であるなら、極上であること間違いありませんわ」。
少女のことばを聞いたあと、彼らはマリシンゲ鹿の肉を細かく切って人々に分配した。人々にはくまなく行き渡ったが、彼ら自身には肉が残らなかった。そこでもう一度分配しなおしたが、またも彼らの分は残らなかった。彼らは怒って、これはとても不吉なことだと言い放った。そしてブスリャーラー、肉がさばかれる岩を去り、長い道のりを歩いて、ブディ村の中央にある胡桃の樹と休憩所にたどりついた。彼らはそこに座った。甥は叔父に対し言う。
「マーマージ(Maamaaji)よ。この弓矢では美しいランカン・シビュを殺すことはできなかった。もし射止めるなら、風のようにすばやいチベットのコラドゥム王(Koradum)の犬、マルマ・ムガイ・コタ(Marma Mugai Kota)の王が持つ槍を買う必要がある。ついでにシャラウン(Syaraun)で犬の首につける鈴も買ってこよう。彼らは同じ日に目的地に着くよう、準備怠りなかった。一対の胡桃の樹と休息所から、叔父は上方へ、甥は下方へ向かって出発した。そして叔父はリミナダ(Rhimyinada)に、甥はティン・タ・ラウン(Tin tha raun)に着いた。さらに歩を進め、ジャンスティ(Jansuti)やパラ(Pala)を過ぎた。
バグラ(叔父)は上方に向かい、ブディ村(Budi)のヒャーマリ寺院(Hyaamari)に着くと、石をリンガに仕立て上げた。サーラナクシェ(甥)はサイターン・シナガルワ(Saitaan Sinagarwa)の住処に着くと棘樹の枝を置き、サイターンの眼が彼を害することはなくなった。叔父はさらに上方に歩き、高山チガレク(Chhigalek)、またの名クシェトゥ(Kshyetwu)に着くと、石のリンガを立て、一方甥は下方に向かい、ニテクテイ川(Nyithekti)に着くと橋を作り、その橋を渡った。彼らは目的地へ向かって、絶え間なく上ったり下ったりした。叔父はガブリャーガ村(Gabryaaga)のグンカー寺院(Gunkhaa)を経て、シャマタ川(Syamatha)のシッラー(Sillaa)の橋に着いた。それから橋を渡り、ジュクティ・リクウィ(Jyukti Likwi)、シャクヌ(Syakhnu)、[ヤルフェン・カワン(Yarfen Kawan)]サジマカン(Sajimakan)、ナチリ(Nachili)、トゥタロ・タン(Thutharo than)、トゥイラシ(Tuilasi)[カラーパニ(Kalaapani)]、ムリナフ(Mulinafwu)、コシナター(Kosinata)、キマカン(Kimakan)、ナウルダティ(Naurdhati)、ナービダン(Nhaabyidhan)、シャンチマグラシティマ(Syanchimagurasytima)、そしてチュナク(Chunakwu)などを経て、リプダッラー山(Lipdarraa)の高い峰に着いた。山頂でお香をあげ、シヴァ・リンガを立てた。地元の習慣にしたがって神を祀ったあと、しばらく休息をとった。バグアはチャウフ川(Chaufwu)に橋を架けたあと、グンカーン(Gunkhaan)の寺院にさまざまな色の旗を捧げ、白い籾米を撒いて神を祀った。彼はその到着をクシェパー王(Kshyepaa)に正式に伝えた。彼はシャンター川(Syanthaa)のシタ(Sita)の橋を修理したあと、クシスラー(Kshyiswulaa)の下のジャクティ(Jyakti)で、貝でできたパーサ(paasa)を投げて博打をした。地元の博打を楽しんだあと、バルマー・リプ(Bharmaa Lipu)を通ってつぎの地域(*読み取り不能)へ抜けた。
バグラは長く歩いたあと、パーラ川(Paalaa)にたどり着いた。川に橋を架け、橋を渡り、インドラ神の守護神にバターを捧げた。さらに上がるとマガル(Magaru)の下級の官吏マカ・バナ(Maka bana)に会い、正式な挨拶を交わした。さらに上がってバシャ(Basya)やチャウダサ(Chaudasa)の人々によるビッリテ(Billithe)の交易市場で交易をした。カーヤラ寺院(Khaayara)では僧侶ジャムシャー(Jyamwusyaa)を礼拝した。また祭司ラバダ(Rabada)とともに読経した。それからトゥユ川(Twuyu)の橋のたもとに旗を捧げ、ガル(Garu)という場所で川を渡り、ウアスタタ平原(Wuasutata)を進んだ。そしてカラドゥマ(Karaduma)のジャムバナ王(Jambana)の宮殿に入った。九つの階段を上り、ジャムバナ王と会い、正式な挨拶を交わした。叔父はジャムバナ王に語りかけた。
「ジャムバナ王よ! 我は一対の胡桃の樹と休息場の近くにあるブディ村の上方を治める叔父バグラである。わが甥はブディ村の下方を治める者であり、いま、サギ(Sahgi)の槍を買うべくムガリコタ(Mugarikota)のムカラ王(Mukara)と面会しているであろう。我は風の如く走るそなたの犬を買いに来た。どうか譲っていただけぬか」。
ジャムバナ王は答えて言う。
「バグラよ! 我は昨夜愛犬の歯二本が折れる夢を見た。ゆえにそなたに犬を譲ることは罪であると考えるのだが」。
「いえ、それはランカン・シビュ(Rankan Sibyu)にとっては不吉な徴かもしれませぬが、我々にとっては吉兆であります」。
バグラは結局金銀でもって犬を買った。ジャムバナ王に正式に別れの挨拶をし、犬に縄を結わえ、九つの階段を降りたあと、下方へ向けて出発した。ラウアマー(Lauamaa)に着くと、(川を越えるため?)大きなジャンプをした。下って行き、ジョラワー・シン(Jorawaa Sing)の山シャマンタン山(Syamanthan)に着くと、お香をあげ、バターとギーをモニュメントに捧げた。下ってチュマンタン(Chyumanthan)のモニュメントに着くと、まわりを一周した。さらに下り、有名なモニュメント、トゥジフォクチャナ(Thujifokchana)ではお香と赤青の旗を捧げた。さらに下り、ダリ(Dhali)やティチャラー(Tyichalaa)を通り、リプレク(Lipulek)のダット・マーニシャナ(Dat Maanisyana)に到着すると、犬とともに休息をとった。さらに下ってチチラマトレ(Chichilamatre)に着くと、川に石を置いて渡った。グンジ村(Gunji)のシャンドゥガ(Syanduga)に着くと、彼はスレートで壁を作った。ヌラダルティ(Nuradharti)の道の下では、棘樹の枝を置き、大きな眼をもつ悪魔が害をなさないようにした。その下方で彼は危険な悪魔カワータ・ラールヌ(Kwaataa Laarunu)を石で殺すしぐさをした。バルカー(Bharkhaa)のシレ(Sire)にあるフチョガ(Fuchoga)では旗を捧げた。トゥルシ川(Tulsi)、またの名カラパーニ川(Kala Paani)で旗を捧げ、さらに下方へ向かった。
さらに下り、ナチニ(Nachini)の道の下でインドラ神の守護神シャンプタ(Syanputa)に旗を捧げた。ラーリラー(Laarilaa)では石をつぎつぎと積み上げた。ナビ村(Nabi)、アウンカーガ村(Aunkaaga)、グンジ村、ナパラチュ村(Napalachyu)またの名ピラウンパー村(Pyiraunpaa)の四つの村の共同寺、シャニュマー寺院(Syanyumaa)の正門カンワークティ(Kanwaakuti)の鍵をあけ、お香と色とりどりの旗を捧げた。さらにまた下方へ歩き、ダシャンラー(Dasyanlaa)を通過してゴーリャーング(Gawryaang)またの名ジュナハール・ジジュンシルパ(Junahaaru Jyijunsirapa)に着き、人々と話を交わした。そのあと悪魔アルタークワ(Altaakhwaa)と出くわしたが、(犬といっしょだったので無事に?)、シャクシナ(Syaksina)やリクウィ(Likwi)を通り、シヤーリカ(Xhhiyalika)、またの名クシェトゥ(Kshyetwu)に着き、シャンマタン寺院(Syanmathan)のベルを鳴らし、寺院のまわりを回った。そのあと下って、チャワルの角で彫刻をほどこした岩ヤールラー(Yaarulaa)に荷物を置き、マルトゥヤラ(Martuyara)やコカチオクティ(Kokachyiokuti)を通って、犬とともに我が家にたどり着いた。
一方甥はマールマー王(Maarmaa)から槍を買うべくシャンラーマーリ(Syanlaamaari)に到着した。さらに下方へ向かって歩き、シラウン(Siraun)に着くと、ラチビアクロス(Rachibiaccross)にバターとギーを捧げ、祈った。彼はシマグマーケワー(Syimagmaakewaa)、ダエナー・ニョ(Daenaa Njyo)、ティナイ・ティチュリ(Tyinayi Tyicchuri)、ディンディヤル(Dindiyar)、ジプティ(Jipti)を通り、カーリ川を渡り、ジャシヤーチャウル(Jasiyaachaur)、サカニャーイ(Sakanyaai)、アーパ(Aapa)またの名ラーパラ(Raapala)、ダウティヤー・パイロ(Dhautyaa Pairo)を抜け、ラーパラ寺院に着くと、旗を捧げ、籾米を撒いて祈りを捧げた。そのあと下ってジャンディカ(Jandika)、ガルダラーピャ(Gardalaapyaa)、ジャラコラ(Jarakola)を通り、ヤラコラ川(Yarakola)の橋を修繕して渡り、長い道のりを経てゴデゴデ(Gode Gode)に到着した。
つぎに上方へ向かい、ファフ山(Fafu)の頂上にたどり着くと、神の名において旗を捧げた。頂上から下ってリサーン川(Risaan)の岸に着くと、石を並べ、川を渡った。さらに歩き続けると、とても有名なマールマー川に着いた。マールマーのムカダヤ(Mukadhaya)、すなわちムカラ王(Mukara)の宮殿はすぐ近くだった。さらに上がり、ムガリコタ(Mugarikota)にある宮殿の最初の階段を上った。そして二段目、三段目、四段目と上がって行き、九段目を超えてムガリコタ宮殿内部に到着した。彼はムカラの王ムカラハヤー(Mukarahayaa)に面会し、正式に挨拶を交わした。甥は王に言った。
「我はブディ村の下方を治めるサーランクシェン、甥である。上方を治める叔父バグラは風より速く走る犬を買うべくカラドゥマ(Karaduma)へ向かい、ジャムバナ・ハヤ(ジャムバナ王)と面会しているであろう。我がここに来たのはほかでもない、鋭い歯をもった槍を買うためであり、シャラウン(Syaraun)のシャンタンター(Syantantaa)から犬の首につける鈴を買うためである。どうかそれなりの値段で槍を譲っていただけまいか」。
ムカラ王は答えて言う。
「サーランクシェンよ! 我は槍を売るわけにはいかぬ。というのは昨夜槍が折れる夢を見たからである。これはそなたにとって不吉な知らせであろう。そうと知りながら売るのは罪深い行為ではあるまいか」。
しかし結局ムカラ王は断ることができず、金銀でもって槍を売ることになった。交渉を無事に終えたあと、甥はチュマチュマ川(Chhuma Chhuma)の橋を渡り、シナーファーフ湖(Sinaafaafu)に着いた。
甥は上方に向かい、バムマン(Bamman)に着くと、パコラ(Pakola)で川の橋を渡った。ジャイティカワー川(Jaitikhwaa)ではまたも橋を架け、渡ってスピナシャー(Spinasyaa)の泉、スピナシャー・ダル(Spinasyaa Daru)に着いた。そのあと大きな川を渡ってファーダン(Faadan)からトゥシャーパニ(Tusyaapani)へと進んだ。そして下ってガルタタン(Galthathan)の寺院で女神に色とりどりの旗を捧げた。さらに下ってシャラウンが住むシャンタマター(Syantamataa)の九つの土地を過ぎて、シャラウンの家に着いた。正式な挨拶を交わしたあと、甥は言った。
「シャンタマターよ! 我はブディ村の情報を治めるサーランクシェンである。犬の首にかける鈴を買うためこの村にやってきた。どうか安い値段で売ってくださらぬか」。
「サーランクシェンよ! 昨夜我は鈴の柄が壊れる夢を見た。これは不吉なしらせであり、それでも売るのは罪深いことではあるまいか」。
「いえ、あなたの夢の中で鈴の柄が壊れるのは、チャンティ山(Chanthi)に住むランカン・シビュにとっては不吉でありましょうが、我々にとっては吉兆であります」。
こうしてシャンタマターは鈴を売ることになった。甥はさらに上がり、山の頂上で石を置き、タマター(Tamataa)のシナ・ディムディマ(Sina Dimdima)を作り、旗を捧げた。それから上がって、ガルタータ(Galthaa tha)に着いた。
甥は上がってジャムバラララー(Jyambara lalaa)、すなわち祖母ジャムバラが住む、縫い物と織物の地クシャ・ブナティ(Kshya Bunati)に着いた。ここは寺院やガルタータ高原(Galthaatha)から数分のところにある。彼は針を刺す(儀礼的?)しぐさをした。さらに上ってインドラの精霊が住むクンダ・ラッパ(Kunda Laappa)の泉やシントゥグジャナ(Sintwugjhana)の岩を訪ね、ギーを供え、聖水を撒いた。甥はさらに上ってコタマダン・ラーラパ川(Kotamadan Raarapa)またはラーパラ川(Raapalaa)を渡り、シナシャーダラ(Syinasyaadhara)に着いた。それから弓矢を持って進み、ラーパラ川に近いリブ山(Ribu)に着くと、神の名において旗を捧げた。さらに上ってフルチマダ(Fulchimada)を通り、ドゥマリナ(Dumalina)でカーリ川を渡り、クロクティ(Kulokti)、ショショウィ(Syosyowi)、ゴラマラー(Golamalaa)を経てボラーマラ山(Bolaamara)の麓に着いた。彼は棘樹の枝で道を塞ぎ、魔物に妨害されないようにした。さらに上ってピャタン・シャー(Pyatan Siyaa)、カタヤーラパーニ川(Katayaarapaani)の下のシャナマーラーリ(Syanalaamaari)、ハヤークワータラ(Hayaakwaathalaa)の寺院(Chanthiaun)を経てシナガルバ(Sinagarbaa)に着いた。彼はまた道に棘樹の枝を強いた。ティンターラウン(Tintharaun)の水車粉引き小屋に着いたとき、甥は叔父と会った。
胡桃の樹と休息所で会うのは前々からの約束だった。叔父は犬を連れ、甥は槍を携え、約束の場所に現れたのである。
サーランクシェンとバグラ(叔父と甥)は村の休息所に坐り、ランカン・シビュをいかにして仕留めるか、話し合った。甥は言った。
「叔父さん! あなたは畑から採ったマラジェ(maraje)、赤い小麦(ひえ?)を揚げたお菓子をもってきてください。私は畑から採ったパルビ(palbi)、赤い小麦(きび?)の粉をもってきましょう」。
サーランクシェンは袋を用意し、それに縄をくくりつけた。シクイ王(Sikhui ?)は犬の縄をもち、笑いながら家を出た。叔父バグラは犬の首に鈴をかけ、袋を背負い、犬の縄をもち、目的地へ向かって出発した。甥と叔父はティンターラウン峡谷(Tinthaaraun)、ジュンガトゥ水車小屋(Jungathu)、パラー・ダルティ(Palaa Dharti)、ハヤークワータラ女神寺院、ミティオクティ(Mithiokti)を通り、ラーマリ(Laamari)に到着した。そのとき甥は叔父に言った。
「バグラ叔父さん! 私は山へ鹿を探しに行きます。叔父さんはその間、チャンティラウン(Chantiraun バムダウン・チャンティ丘 Bamdaun Chanti)の下か、ブルシャーラ岩(Burshaalaa 肉を分ける岩)の上に三つの石で炉を作り、火を着け、ご飯を炊いていてください」。そう言うと甥は上方へ歩いて行き、サンガリラー(Sangalilaa)、ヤラチャカナリ(Yarachhakanari)を経て鹿が住むフサウンダ(Fwusaunda)に到着した。バマダウ・チャンティアウン(Bamadau Chantiaun)で鹿を待っていると、金の口、銀の身体、貝の角、青い目をもつ鹿が現れた。ランカン・シビュである。ランカン・シビュは日光の下では半透明で、光を受けて輝いていた。サンランクシェンは聖なる光景を見たのだと思った。
バグラ(叔父)が食事をこしらえているとき、上からふたつの石が転げ落ちてきて、食事を台無しにした。叔父は怒って鍋を上に投げつけた。叔父は気を取り直し、鍋を洗って炉の上にかけてご飯を炊き始めた。しかしまた石が落ちてきて、今度は鍋をつぶしてしまった。頭にきた叔父は半ば調理されたご飯を上に向かって投げつけた。そのあと叔父と甥は出会った。甥は言う。
「叔父さん! 露の影響を受けて(?)もう死にそうなほどお腹が減った。ご飯の支度はできたかい」。
「甥よ! あれを見ろ」。
そこには叔父の投げつけたご飯がありありと見えた。甥は怒って言う。
「叔父さん! だれが石を投げて叔父さんにご飯を投げさせたのだい? こうなったら敵を殺さないかぎり、我々に生きていく手立てがないよ」。
そう言うと彼は山の頂上に向かって歩いていった。そしてついにチャンティラウンの頂下で草を食むマーリシガイ鹿(maalisigai)を見つけた。甥は言った。
「マーリシガイよ! おまえのほかに石を投げてご飯を台無しにしたやつはいない。お前をムカラ王から買った槍で殺さない限り、我々は生きていくことができない!」。
マーリシガイは坂をすこし下って言った。
「叔父と甥よ! 私のうしろにカラスが隠れている。あいつがやったんじゃないかね」。
名指されたカウア(カラス)は叔父と甥に言う。
「わが叔父と甥よ! 誓って私ではない。金の口、銀の身体、貝の角、青い目をもつランカン・シビュという鹿が食事作りの邪魔をしたのではないでしょうか」。
丘を上り、彼らはランカン・シビュに出会った。甥は言う。
「ランカン・シビュよ! もしお前をマールマ・ムカラヤー王から買った槍で殺さなかったら、我々には生きている甲斐がない」。
「わが叔父と甥よ! 食事作りの邪魔をしたのは私ではない。[タナクプル(Tanakpur)近くの池]シルナンディ(Silnandi)に住むミリチャーフ(Milichyaafwu)という鹿が私にばけてやったのだ」。
彼らはランカン・シビュの言うことを信じることができず、犬を放って後を追った。犬はチャンティラウン山の頂上をまわって取り囲んだ。しかし鹿はさらに逃亡して、ウィラシシナダン(Wilasisinadan)、ロウクガシナ(Rhoukhgasina)、マドリパ(Madripa)の上のヌシナジャーラ(Nusyinajaara)、シニャーフ(Syintaafwu)、ダルマンジャー(Darmanjyaa)、そしてゴラマラー(Golamalaa)へと至った。そこで甥は弓矢を放ったが、射止めることはできなかった。矢は岩に当たってふたつに折れた。さらに鹿を追って彼らはクロクティ(Kuloktui)、グバラチャマ(Gwubalachhama)に着いた。
ランカン・シビュを追って彼らは丘を下り、ラジマ・シャーティ(Rajyima Syaathi)とその馬ラーチチ(Laachchhi)が住むシシャウカン(Sisyaukan)に至った。いまも石と化した彼らを見ることができる。ここにはインドラ神の眷属である水の精ティニタ(Tinyita)や岩の精ラーニュタ(Laanyuta)がいる。叔父と甥は聖なる水で彼らを浄め、ランカン・シビュを追った。さらに下ってラウキナ山(Raukina)の女神の寺院に至り、さまざまな色の旗を捧げて女神に祈り、鈴を鳴らした。さらに追ってバンバー(Banbaa)のシャンバフ(Syanbafwu)、つまりバフ魔の場所に至った。バフ魔は鹿をかくまっていたのである。彼らは悪魔に対して言った。
「勇敢なる悪魔よ! ランカン・シビュをかくまわないで引き渡してほしい」。
悪魔は鹿を放し、犬はそれを風のような速さで追った。彼らは追ってカーリ川とダウリ川が交わるところへ至り、さらにシダルガ(Sidarga)、ジュティ・シャガランディ(Jyuti Syagalandi)、タニ(Thani)を経た。そして下ってタラガタ(Thalaghata)でカルソラ(Kharsora)という鹿を見つけ、甥が弓で射て殺した。彼らは肉を分けたが、またも彼らの分を得ることはできなかった。(ランカン・シビュではないので)
叔父と甥は怒りでいっぱいだった。甥は言った、「これは我々にとって吉兆であり、ランカン・シビュにとって不吉なことだ」。
こうしてサーランクシェンとバグラは犬を放ち、ランカン・シビュを追った。犬は魚のように速く走り、鹿に攻撃を仕掛けるが、鹿はうまく身体をかわした。彼らはチャスクーラー(Chhaskuulaa)を経てマタヤー寺院(Matayaa)に着いた。ランカン・シビュは寺院のなかに隠れた。叔父と甥はマタヤー神にさまざまな色の旗を捧げ、祈ってから、言った。
「神よ! ランカン・シビュを我々のもとに返してほしい」。
ランカン・シビュはまたも放たれた。トゥリ(Tuli)で悪魔に一時身を預けたあと、鹿はビャーンサ(Byaansa)やダルマ(Darma)の嫉妬(milwu)をなくす場所とされるミルウカン(Milwukan)またの名ミタリ・セラ(Mitari sera)へ逃げ込んだ。叔父と甥は鹿の背を追ってカリ・ダウリ(Kali Dhauli)、ピタウラガダ(Pithauraghata)、セラグタ(Seraghta)、カリ・クマウ(Kali kumau)、チャムパワンタ(Champawanta)を経てガウリ川とチャムタヤー川(Chamtayaa)が交わる地点にたどり着いた。そこで彼らは武器を用いて攻撃を仕掛けたが、成功しなかった。彼らと犬はさらに追ってプルナギリ(Purnagiri)の女神の寺院に着いた。そこに鹿は隠れていたのである。
「偉大なる女神よ! 我々は色とりどりの旗を捧げ、白い籾米であなたに祈った。どうかランカン・シビュを引き渡してほしい」。
女神は鹿を放した。
ランカン・シビュはシラ川(Sila)に飛び込み、叔父と犬も追って飛び込んだ。甥は叔父が水中に沈まないよう後ろからつかもうとしたが、つかんだのは髪の毛だけだった。猟犬と叔父は川に沈んでしまった。
犬も叔父バグラも溺れてしまい、甥のサーランクシェンだけが生き残ったのである。彼らを失った甥は悲しみに暮れた。しかし甥はあきらめずあたりを探し回った。プルナギリの寺院に着くと、死んだはずの犬のほえ声が聞こえた。彼は犬も叔父も生きているのではないかと思った。彼は上ったり下ったり、あちこちを探し回り、カリ・クマウに着くと、またもおなじような犬の声を聞いた。犬も叔父も生きていると信じてあたりを探し回った。甥はティタリ・セラ(Titariseraa)に着き、またもおなじような犬の声を聞いた。そしてあちこちを探し回り、ニル・ファフー(Nilwu Faafwu)に着くと、またおなじ犬の声を聞いた。犬と叔父は生きているにちがいないと感じた。どこでもクラックラッ、チッチッ(crak crak, chir chir)という音を聞いた。しかしなにも見ることができなかった。このような死んだ人、死んだ動物の声はビシロ(bisilo)と呼ばれるものである。甥は丘を上り、ダカラ・バーガーラ(Dhakala Baagaara)の寺院、バービタ(Baabyitha)、タワガタ(Tawaghata)を経てタニに着いた。これらの場所をめぐりながら生前の叔父や犬のことが思い浮かんだ。まだ彼らが生きていることを願ってあちこちを探し回った。タニから上って下ラウト(Parauto)でも上ラウト(Yarrauto)でもおなじような声を聞いた。ふたつのラウトの中間に達したとき、黒雲が空を覆った。嵐がやってきて、激しい雨が降り始めた。そして突然甥は消えた。罪によって死を迎えたのである。