シャンバラとケサル王 (宮本編訳) 

ニコラス・レーリヒ (ニコライ・リョーリフ) 
「シャンバラ」(『アジアの心』所収)より 

 

 1924年、チベットを実際に旅行してきたばかりのアレクサンドラ・ダヴィッド=ネールは、ケサル王に関するいくつかの記事を書いた。ケサル王という伝説的な存在は、シャンバラの王、リクデン・ジャポ(リクデン・ギャルポ)と並び称せられるものであり、多くの共通点があった。 [訳注:ダヴィッド=ネールは1920年代、30年代の大半をチベットで送っているので、チベット旅行中の合間に書いたというべきだろう] 

 彼女はケサルに関する古代の予言を思い出させてくれた。それはいかにして忠実な戦士を集めるのか、またラサからどうやって邪悪な勢力を駆逐するかについても触れられていた。

 彼女の『来たる北方の英雄』という記事の中でダヴィッド=ネール夫人は言う。

「英雄ケサル王は北方のシャンバラに転生するだろう。そこにおいて、彼は前世において彼に従った協力者やリーダーたちを、もう一度団結させるだろう。彼らもまたシャンバラに転生し、そこで統治者の神秘的な力や、イニシエーションを受けた者だけが聞くことのできる神秘的な声に魅了されるのだ」

 統治者ケサル王は無敵の軍隊を率いてやってきて、ラサの邪悪な勢力を滅ぼし、正義を打ち立て、あらゆるところに繁栄をもたらすだろう。

 チベットにいるとき、われわれはこの伝説に確信を持つ機会があった。

カム地方には、ケサル王の宮殿があり、そこにケサル王の軍隊の剣が集められたという。そしてそれらは宮殿の建物の梁として使われたと聞いたのだ。

矢はケサル王の象徴である。彼の矢は雷光であり、田野で発見される矢の先端は、水晶化した雷電と考えられた。天からの勅令は聖なる文字で紙に書かれ、その紙は矢に巻かれていた。

ケサルは雷の矢で武装し、運命づけられた軍隊は人類を救済するために、いつでも聖なる世界からやってこられるよう準備を整えていた。聖なる文字を読むことができるケサル王は、この象徴が、霊的な勝利の時代の幕開けを意味することを理解していた。

 

チベットのシャンバラとマイトレーヤ(弥勒)の予言について思い出そう。

 

シャンバラとマイトレーヤの予言 

宝は西方から戻ってくる。山上の歓喜の火が点される。

道を見よ。「石」を持つ者たちが歩いている。

「祠」の上にマイトレーヤの徴(しるし)がある。期待の絨毯が広げられるとき、「聖なる王国」から日時が与えられる。七つの星の徴によって、「門」は開かれる。

「火」によって私は「わが使者」をあきらかにするだろう。

あなたの幸福の予言を集めなさい。

 

これらは満たされるべき祖先の予言であり、賢者の言葉である。つとめて理解して、運命づけられた者を歓呼して歓迎しなければならない。

 5年目の年、北方のシャンバラの戦士たちが颯爽と現れ、彼らと会おうとするだろう。そして新しい栄光を受け入れよ。私は「わが雷光の徴」をあきらかにしよう。

 

      ケサル王の命令 

私はたくさんの宝を持っているが、指定された日にのみ、それを「わが臣民」に贈ることができる。北方のシャンバラの軍隊が「救済の槍」をもたらすとき、私は山の奥深さをあきらかにし、「わが宝」を戦士たちやあなたがたの間で平等に分配し、公正に生きるだろう。

 すべての砂漠を越えて、「わが命令」が発せられる時は近い。風によって「わが黄金」がばらまかれるとき、北方のシャンバラの人々が「わが所有物」を集めるためにやってくる日を選定するだろう。それから「わが臣民」は宝を入れる麻袋を用意するだろう。そしてそれぞれに私は分配するだろう。