22 送魂路のミッシング・リンク:マガール族
ヒマラヤ南麓の民族と中国西南の民族の類縁性をはじめて指摘したのは、マイケル・オピッツ氏だろう。氏がとくに注目したのはマガール族とナシ族だが、当時はジョセフ・ロックのナシ族研究ぐらいしか資料がなかったためで、いままで見てきたように、われわれは中国西南のほとんどのチベット・ビルマ語族に同様の類縁性を認めることができる。
マガール族の葬送儀礼の際には、ソーマーラーニ歌がうたわれる。それには二種類ある。ひとつは儀礼歌であり、創世時におけるインドラとバグワニの娘、ソーマーラーニの物語である。
彼女はマハーデヴとパールヴァティのあいだにできた(盲目の国を治める)子どもと結婚する。彼女は地上に降臨したものの悪いことがつづいたので、天上世界へ戻ってしまう。さらに太陽や月、昼と夜の創造、大災害のあと鳥の糞とヒマラヤの森からできた灰をまぜあわせて人間を作り直すなどといった話がつづく。
ソーマーラーニ歌のもうひとつが送魂歌である。ソーマーラーニという名を冠しながらも、それは故人の魂の永遠の休息所へたどる道なのである。オピッツ氏はタカ村を起点とする送魂路線を収録している。
<タカ(Taka)→ ンガイパ(Ngaipa)→ フカム(Hukam)→ マイコット(Maikot)→ プルバン(Purbang)→ マジラ(Majila)→ ジャングラ・バンジャン(Jangla
Bhanjyang)→ タラコット(Tarakot)→ リンモ(Ringmo)→ チャルカボット(Charkabhot in Dolpo)→ ムクティナート(Muktinath)→ ムスタン(Mustang)→ カガル(Khagar)→ 西チベット → ツァン → ティスタ川 → ブータン → ブータン北方の湖>
終点がどこなのかははっきりしないが、漠然と青海湖などを指すのかもしれない。しかし字義通りにとらえるならば、ブータンのすぐ北の湖、プマ湖かヤンドク・ユムツォ湖、あるいはラモ・ラツォ湖、もっと北方でもせいぜいナムツォ湖ということになるだろう。
ラサとブータンのあいだは山南(Lhokha)地方と呼ぶが、この地方にマガール族の先祖の部落が長い間住んでいたのかもしれない。