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*オゲ・マケは実際は雑誌のライターであり民族学者のL・テイラー・ハンセン(1897-1976)である。ふだん筆名として用いているL・テイラー・ハンセンもまたペンネームであり、本名はフルネームでルシール・テイラー・ハンセンだった。彼女は毎月『アメージング・ストーリーズ』誌のコラムを担当し、インディアンの伝説や物語を発掘した。1940年代、民族学はいまだ男性の独壇場であり、ハンセンはあきらかに自分が女性であることを隠していた。そのことで彼女の信頼性が揺らぐわけではなかったけれど。
しかしここではなぜ彼女は自信をナバホと偽ったのだろうか。おそらくハンセンは何度もナバホの地域を訪れ、それについて書いたので、部族の名誉メンバーという称号を得ていた。(彼女はほかの部族、たとえばオジブワ族からもおなじような扱いを受けていた) もっともらしい理由は、フェイト誌の編集者レイ・パーマーが記事の価値を高めるため、インディアンによって書かれたように見せかけたのだ。
オゲ・マケはハンセンが最初に成りすましたインディアンではなかった。アメージング・ストーリーズ誌(編集長はレイ・パーマー)1946年12月号の記事のタイトルは「アメリカの謎の民族、巨人族」だった。学識があり、文学的な文章スタイルから、記事を書いたのがコラムニスト、L・テイラー・ハンセンであるのは見え見えだった。しかし作者の名はハンターであり漁師である「チーフ・セコイア」に帰せられた。チーフ・セコイア(つまりハンセン)の心をひく散文や巨人に関する言い伝えはここに引用するだけの価値があるだろう。
「わたしが少年として聞いた最初の物語はパシフィックコーストのインディアンがセアトコスと呼ぶ巨人族に関するものでした。友好的なキャンプファイアーの前に坐っているときや、長いカヌーの上で気持ちよく毛皮にくるまってピュージェット湾を上下するときも、語り部はいつもロッキー山脈だけでなくオリンピック半島も上り下りするカラフルな巨人の話をしたがります。彼らはすばらしく速いランナーで、獲物に追いついて、手で殺すのです。彼らは奇妙な性生活を営んでいて、そのためにインディアンの女たちをさらって、妻のような結びつきを持ちます。彼らはパシフィックコースト・インディアンのさまざまな言葉を理解し、流暢に話すことができます。彼らは現代の催眠術師の知識を越える催眠術の技術を知っています。一流のニーチェばりの哲学は彼らをしばしば無慈悲にさせます。腹話術に関しても練達してマスター以上といえます。彼らはサイキックであり、奇妙な神秘的なパワーを持ち、ユーモアのセンスを持ち、ときには子供のようにはしゃぎまわり、人に実践的なジョークを飛ばし、笑い者にするのです。
ピュージェット・サウンド・インディアンは冬が始まる前、ときおり、奇妙な、魂をかき乱すような歌を聞くそうです。それは巨人たちがオリンピック山脈のなかを南のほうへ行進していくときに歌うものです。わたしはインディアンの神秘主義者から、彼らが聞いた歌を採集しました。歌は、恒星のハーモニー、星々の宇宙的な歌、天球の音楽、人の四大周期における世界の衝突、時の死んだ灰を帯びた飢えた人々の不満げな話声、サイクロンのような強い風が分子も人もいない空虚な暗がりに探し求めるような根本的な軋轢の冷静な反乱、火の時代の原初の闇におけるアメリカの燃焼、ブヨのブンブン唸る音に砕け散る潮の波、マストドンの甲高い鳴き声、犬たちの吠え声、ライオンたちの咳払いのような声、ツグミのメロディアスな鳴き声、巨人族の牛のような声、人のむせび泣き……などと象徴的に調和するゴロゴロと鳴る雷のくぐもったリズミカルな音のようでした。
ピュージェット・サウンド・インディアンは謎の巨人族を目撃し、会話を交わした唯一の部族ではありませんでした。オカナガン族、イロコイ族、カー・ダレーン族、カリスペル族、ペンドオレイユ族、ネズ・パース族、チェロキー族らも歌や伝説のなかで彼らのことを語っています」
インディアンの伝承の年代記作家としてハンセンは該博な知識を持つだけでなく、饒舌だった。しかしながら彼女の毎月のコラムは――本にまとめられることはなかった――ゆっくりと消えていった。というのも、アメージング誌(パルプ紙に印刷されていた)の古い号のページはもろくなり、ぼろぼろになっていくからである。彼女が後世に伝えようとした文化のように、L・テイラー・ハンセンが書いたものは消滅していった。
ハンセンについては、エリック・リーフ・デイヴィンの『驚異のパートナー:女たちとサイエンス・フィクションの誕生』を参照してほしい。