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 夜、ドゥン・シを散策するのがカークの習慣だった。寝間着を着て盛り土の上をさまようカークは幽霊のようにも、変人のようにも見えた。というのも彼はときどき地面に耳を置き、妖精の言葉を聞いていたからだ。5月14日、カーク師はいつものようにそのあたりを散策していた。

 その晩遅く、彼は盛り土の上で倒れているのを発見された。心筋梗塞で倒れたのはあきらかだった。マンセに担ぎ込まれたカークは死の宣告を受けた。彼は48歳だった。

 葬式が行われた。ロバート・カーク、あるいはそうだと思われる者は、教会の庭に埋葬された。彼の物語はこれで終わったと思われた。

 しかしまだ終わっていなかった。数日後、寝間着のままの姿で彼は親戚の夢の中に現れ、言った。

 

「いとこのダクレーのところへ行って、わたしは死んでいないと告げてください。わたしは卒倒して、妖精の国に運ばれました。わたしはいまそこにいるのです。ダクレーや友人たちがわたしの子供の洗礼儀式に集まるとき(カークの妻は妊娠していた)、わたしは部屋に現れるでしょう。もし彼が手に持っているナイフをわたしの頭の上に投げたら、わたしは解放され、人間社会に復帰できるでしょう」

 親戚がメッセージを伝えるのを怠ったので、カークはふたたび彼のもとに現れ、要求に応じるまで彼に憑依すると脅かした。こうしてメッセージは届けられた。洗礼の日、いとこのダクレーはナイフを持って準備を整えた。

 家族と友人たちがマンセに集まり、子供は洗礼を受けた。そのとき突然カークが正面のドアから現れた。そこにいる全員がその姿を見た。ダクレーはひどく驚き、ナイフ投げに失敗した。カークはあきらかに失望し、中を通り抜けて後ろのドアから出ていった。

 いったい何が起こったのだろうか。カークが妖精たちによって捕らわれているのは明白だった。ハイランドではよく起こることだった。しかしなぜ起きるのか。ウォルター・スコット卿によれば、妖精に関する情報を集め、妖精の丘に侵入した結果、連れ去りが罰であることを突き止めた。ウォルター卿はドゥン・シでの最後の瞬間を描写している。

 

 彼が脳卒中の発作を起こして倒れてしまったとき、教養のない人々は彼が死んだと思った。一方理解している人々にとって、彼は超常的なるものの影響によって卒倒しただけだった。彼は超常的な人々の領域を犯してしまったのである。

 

 彼らの秘密を探ったことで、彼らをひどく怒らせることになった。

 

 (妖精たちは)嫉妬深く、激しやすいので、固有名詞で彼らのことを語る人々に対しても怒りをぶつけてくるのだ。だから彼らの謎を詮索してその存在を公にしようとする神経すべき作者の向こう見ずさを攻撃しないとは言えないのである。

 

 こうした罪によってカークは神隠しにあってしまった。つまりこれは妖精の復讐というとんでもない災難である。

 しかしドゥン・シで発見され、マンセに運ばれた体は何なのだろうか。妖精たちの悪賢さを知っている地元のハイランダーには、気の利いた説明がある。すなわち体は模造されたもの、つまり「代替」である。妖精たちはカークを連れ去り、身代わりを置いていったのである。

 教会の庭に埋められたのは身代わりだった。そしてカークは妖精の国に捕らえられたままだと広く信じられている。

 

 つづく何年かの間、彼はアバ―フォイルの住人の夢の中に現れ、助けを求めた。またときおりだれかがドゥン・シ近くの橋を渡るとき、突然背中が重くなることがあった。ロバート・カークの魂が逃げたがっていたのだ。しかしこの聖職者の運命は封印されていた。依然として彼は妖精たちの中に残されたままだった。

 彼が拉致されてから三世紀がたった。カークはおそらく囚われの身であることを観念してしまったのだろう。いやむしろうまくやっているのかもしれない。妖精たちの家を訪ね、彼らの晩餐に(吟遊詩人トマスとともに)参加しているのかもしれない。論文のためにノートを取っていることだろう。妖精自身がいまや彼のインフォーマントなのである。

 そして役に立たないかもしれないけれど、妖精に向かって福音を説いていることだろう。

 


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