地球内部への旅 12
ハンス・ディートリヒ
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バルト海に浮かぶリューゲン島は人気のある旅行先である。住人は基本的にドイツ人だ。しかし彼らはほかの人々と同居していた――ミステリアスな地底人である。背は低く(ドイツ人の膝の高さほどしかない)ズウェルゲン、すなわち小人として知られている。
小人はランビン村ちかくの「九つの丘」の下に住んでいる。彼らはそこで銀細工師、金細工師として働いている。冬の間は、小人たちは地下深くに仕事場を置いている。春になると丘の外に現れ、陽光や花々を楽しむ。夜、彼らは草の上で音楽を奏で、ダンスをして、はねまわる。村人は音楽を聴くけれども、小人の姿を見ることはできない。彼ら自身が姿を消しているのだ。
かつてディートリヒという名の家族がランビン村に住んでいた。末の息子のハンスはとても賢くて、行儀もよい、勉強好きの少年だった。彼は物語を熱心に聞いた。
ある夏ハンスは仕事を手伝うよう叔父の農場へ行かされた。そのとき彼は八歳だった。仕事の内容は老いぼれクラースの牛飼いを手助けすることだった。ナインヒルズで牛を放牧するのである。一緒に働きながら、クラースは物語を語って少年を楽しませようとした。こうしてハンスは丘の下に住む小人たちのことを知った。
しだいに少年は小人たちの地下の家を訪ねたいと思うようになった。どうやったら地下へ行けるかクラースは教えた。小人の帽子をかぶるのである。帽子をかぶれば人は小人を見ることができ、地下の世界へ安全に降りていくことができた。行くだけでなく、彼らを御することができた。
ついにハンスは自分を抑えることができなくなった。夜の間に彼は農場を抜け出し、丘へ向かった。クラースによれば小人たちはどんちゃん騒ぎをしているはずだった。彼はそこに横たわり、眠るふりをした。
深夜十二時、遠くの教会の鐘が鳴った。まもなくして音楽が沸き起こってきた。ハミング、太鼓の音、ささやき、そして歌。チャリンチャリンという鈴の音、そしてつむじ風。小人たちが丘の上で踊っているのだ。しかしのぞき見しているのに、ハンスの目には何も映らなかった。彼らは風のように何も見えなかった。
だから彼らのはしゃいでいる姿も見えなかった。小人たちは互いに帽子を取り合い、取った帽子をほかの小人にトスした。しかしそれがハンスの近くに飛んだとき、鈴がついた帽子は描かれた弧の頂で目に見えるようになった。
「小人の帽子だ!」ハンスは叫んだ。そして跳んで帽子を拾い上げ、かぶった。
帽子をかぶったら、小人たちが見えた。何十人もの小人たちが丘の上ではしゃいでいた。彼らはみな似た服装をしていた。月光を浴びてきらめいていたのは帽子についた鈴だった。ベストのボタンや靴の留め金も光っていた。
帽子の持ち主がハンスに近づいて、取り戻そうとした。ハンスが身をかわすと、小人は返すよう懇願した。しかしハンスは手放そうとしなかった。「ぼくがきみの帽子、あずかるよ」とハンスは言った。「これがあると、きみの主人だからね。小人くん、きみはぼくの召使だ! ぼくが欲しいって言ったら、きみはもってこなければならない。さあ、きみは小人が住む地底の国にぼくを連れていかなければならない」
小人は泣いたけれど、どうしようもなかった。ハンスは食べ物を持ってくるよう命令した。そしてダンスはつづき、ハンスはごちそうを楽しんだ。
夜が明け、トランペットが鳴り響いた。丘の扉が開き、小人たちはひしめきあいながら、そのなかに入っていった。召使に導かれてハンスも丘の中に入っていった。
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