(8)

 朝がやってくると、際立った景色が姿を現した。そびえたつ山の麓にはうねうねとつづく丘や茂みがあった。エクスプローラー号は小湾に入り、錨を下ろした。

 シーボーンは地球内部に彼が発見した土地を調査した。そしてその地を名付けた。

 

 12月24日正午、われわれは14ファゾムの水深の良好な砂の底に錨を下ろした。シムズ船長のすばらしい理論に敬意を表してわたしはただちにシムゾニアと名付けた。

 

 住人との接触の準備のため、シーボーンは自分の船室に退いた。彼は髭を剃り、フォーマルな服装に身を包んだ。「できるだけ風格があるように見せるため」腰にはサーベルを着けた。そして側近から七人を選び、武装させ、彼らとともにロングボートに乗り移った。

 上陸隊はまず岸辺に向かった。シーボーンはボートの船首に立ち、そよ風を満喫した。ボートの艫(とも)にはアメリカの国旗が翻った。

 彼らは埠頭で上陸した。平和の意図を示すため、シーボーンはサーベルを取りはずした。もっとも部下たちにはマスケット銃を手放さないように命じていた。部下たちにはボートに残るよう命じ、彼はひとりで上陸した。彼は波止場を歩いて公共の建物らしきものへ向かっていった。数多くのシムゾニア人が玄関に集まっていたが、シーボーンが近づくと、みな建物の中に避難した。シーボーンは帽子を取り、建物のほうに向かってお辞儀した。

 だれも現れないので、彼はもう一度お辞儀をした。それで彼は北極探検家のロス船長の体験を思い出していた。ロスは地底からやってきたらしい人々と出会った。彼らは鼻を引っ張って挨拶をしたという。このしぐさは地上なら侮辱したと受け取られるだろう。しかし地球内部ではどうやらちゃんとした挨拶らしかった。そこでシーボーンはもう一度帽子をかぶり、まっすぐ立ち、鼻を引っ張った。

 この動作には狙い通りの効果があった。はじめ数人の個人が、ついで群衆が建物から出てきた。彼らはアメリカ人をじっと見つめ、それから互いに話し始めた。ついにひとりが彼のほうへ足を踏み出した。そして親指を鼻に置き、手を振った。シーボーンもおなじように手を振って返した。ふたりは近寄って会話をしようと試みたが、互いに相手がしゃべることを理解することはできなかった。

 

 はたして目の前に立っているのが死すべき者(人間)なのか、ゴブリン(小鬼)なのか、彼がいぶかしく思っているようなので、超越的な存在(神)の観念を持っていることを彼に示そうと考えた。そこでわたしはひざまずき、両手、両目を天のほうへ向け、祈りの姿勢をとった。これは相手に明確に理解されたようである。喜びの叫び声が発せられると、ついで上陸隊一行の全員が祈り始めた。数分間、すっかり彼らは祈ることに夢中になっていた。

 

 群衆は立ち上がった。会話を試みたシムゾニア人はシーボーンのところにやってきて握手をしようとした。男は彼のまわりを歩き回った。好奇心いっぱいでこの探検家を精査しようとしていたのだ。

 シーボーン船長はその間彼をじっくりと見ていた。シムゾニア人は背丈がおよそ4フィート(120センチ)で、群衆のおとなはみなそのくらいだった。彼の肌の色は青白かった。あきらかに地球内部は太陽光不足だった。彼はほかの人とおなじように白いチューニック(短い上着)を着ていた。髪の毛には鳥の羽の房が編み込まれていた。

 

 目で見た限りでは問題なかったので、わたしはふたたび彼に理解してもらおうとがんばってみた。身振り手振りで、わたしが平和を望んでいること、だれも傷つける気はないことをうまく伝えることができた。彼は建物を指した。わたしはどうやらそこへ招待されているようだった。わたしは地底人とともに歩いて玄関へ向かった。

 

これがシムゾニア人の中にシーボーンが六か月間滞在したそのはじめだった。この期間中彼がいざなわれたのは、ユートピア社会にほかならなかった。

 

 


⇒ つぎ