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 その本のタイトルは「オアースピ 新しいバイブル」だった。ジョン・ニューボローによって書かれた――というよりもチャネリングされた――著作である。学校教師の息子であるニューボロー(18281891)はニューヨークで開業している歯科医だった。スピリチュアリズム(心霊主義)に傾倒していた彼は、降霊会に参加し、霊媒と面会した。彼の情熱は真実を探ることに注がれていた。

 この本のなかで彼が語るには、ある夜、目覚めると、寝室全体が光の柱によって輝いていたという。ベッドのかたわらには天使が立ち、彼に語りかけてきた。「あなたはジェホヴィ(Jehovih)のために布教活動をしますか」

 ニューボローは自分が布教活動をすることを知っていた。

「第一に」と天使は言った。「十年間、あなたはスピリチュアルな生活を送らなければなりません。それからわれわれは戻ってきて、あなたにわれわれの考えを教えます」

 離れる前にこの訪問者はニューボローにいくつかの指示を与えた。菜食主義者になること。体重を減らすこと。(ニューボローの体重は250ポンド、つまり110キロ余りだった。新聞によれば、彼は「黒い、夢見るような目を持った大柄な男で、動作が鈍かった」という) そして慈善事業に尽力すること。その一環として貧しい人々のために無料で歯の治療を施した。

 十年の間、ニューボローは指示されたとおりのことをした。すると天使が戻ってきた。「あなたはわれわれのテストをパスしました。さてこれからタイプライターを買って、机の上に置きなさい」

 タイプライターは当時まだ登場したばかりだった。ニューボローは一台購入した。そして一年近くの間、34番地西の自宅で自動書記にいそしんだ。毎朝夜明け前に起床し、暗いうちに机上のショールズのタイプライターの前に座った。彼はトランスに入り、半円形に並んだキーボードを叩いた。彼の指は飛び回り、つぎつぎとページを生み出した。彼は何をしていたのか? 天使とチャネリングをおこなっていた、すなわち他界の生きものから指示を受けていたのである。

 そしてついに1882年、ニューボローは結実したものを出版した。オアースピは1000ページ近くの大著だった。挿絵も描かれた。(まるで暗闇で描かれたようなドローイングだった) それには天使が指示を与えた宗教的、哲学的な素材が含まれていた。

 1936年にはコスモン・プレスから改訂版が発行された。出版人はニューボローのことを「オアースピが世界と交流するときの媒介となる器」と表現した。そして内容を簡潔に紹介した。

 この特別な本の内容に関していえば、創造主宇宙との関係についての詳しい教えを含んでいることを述べれば十分だろう。

●24000年間の地球と諸天界の歴史。物理学の完全にして革新的な概念を含む宇宙起源論と宇宙論の原理。

●天使の諸世界とその地球との関係の本質。人の起源と生きている間の前方への、そして上方への道、そして死後の精神的解放への道。

●覚醒した倫理の原理。世界中のすべての異なる宗教の教義と象徴の失われた鍵。

●異なる時間サイクルで人間世界に送られた偉大なる師たちの歴史。

●いまわれわれが生きている文明に取って代わる文明の特徴。

●形而上学、儀礼、儀式、魔術、予言などに関する数多くの驚くべき教え。

 レイ・パーマーがいま興味を持っているのは宇宙論だった。オアースピによれば、見えない諸層が地球を取り囲んでいるのだという。球体のそれぞれが物質の異なる「濃度」すなわち異なる割合のバイブレーション(震動)を持っている。そしてそれらがアストラル界を形成しているのだ。

 もっとも外側の層はエテリアと呼ばれると、天使が明かした。そこは死者の魂がめざす究極の到達点である。死者たちは精神的に成長しながら、そして基本元素を落としながら、そこへ向かって道を進まなければならない。エテリア層に達したとき、かれらは天使、すなわち純粋なる魂の存在になる。そして天国に暮らすことになる。

 しかし一部の魂は、かれらの邪悪さがのぞかれるまで、もっとも内側の層に残らなければならない。これらの魂はドルジャスと呼ばれる。邪悪さはかれらを悪魔に変える。このように、もっとも内側の層は地獄のような場所である。

 パーマーはこのドルジャスについて読んだとき、はたと気づいた。これはデロではないか、と。たしかにこれらはおなじものであり、ひとつである。内側の層? これは地底の洞窟世界ではないか。

 さらに、パーマーはオアースピにつぎのような言葉を見つけた。「ドルジャスが死すべき者(人間)を支配する。すると隣人たちは彼を狂人と呼ぶ。そしてかれらは彼を精神病院へと送る」シェイヴァーが描いたものと完璧に同じだ。

 パーマーは理解した。洞窟はわれわれの下にあるのではなく、上にあるのだと。アストラル世界の最初の層なのだ。シェイヴァーは実際にそこへ行った――いくつもの連なるヴィジョンのなかで。

 精神病院のなかに拘束されながら、彼は自分のアストラル体のなかに逃避した。そして存在の異なる世界を訪ねていたのだ。

 パーマーはオアースピを読んだあと、こういった結論に達した。そして「新しいバイブル」に感銘を受けた彼はこの書そのものを出版した。(版権は切れていた) 「時代のもっとも偉大なる書」と彼は謳った。「オアースピは、見える世界と見えない世界をつなぐ橋である」

 彼はシェイヴァー・ミステリーの謎を解いた――さらに大いなる謎(ミステリー)を呼び出すことによって。



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