チベット奇観 17  チベット砂漠 

 杞憂という誰もが知っている言葉がある。由来は『列子』で、昔、杞の国の人が「天が落ちてきたらどうしよう、地が崩れたらどうしよう」と心配になり、食事も喉を通らなくなり、夜も眠れなくなったというエピソードだ。

 笑うことはできない。「小惑星が地球にぶつかったらどうしよう。大氷河期がやってきたらどうしよう」のような心配はしないほうがいい。でも「マグニチュード9の地震が起きたらどうしよう。気温が上昇して日本が亜熱帯になったらどうしよう」などはリアルな心配の種である。

 私もこの西チベットの 「砂漠化現象」を見て心配になった。「宮憂」とでも言おうか。この「砂漠化」が進み、何年かのちにはチベット全体を覆うのではないか。ラサは今や高層ビルが林立する都会である。しかし千年ののちには町は砂の中に埋まり、砂の惑星のような風景に廃墟となった高層ビルがニョキニョキと突き出ているのではないか。一番目立つのは高さ百メートルの頓珠金融産業園ツインタワーだ。(実際高層ビルはたくさん建っているので、どれがとくに目立つというわけではない)

 氷河がかなりの速度で溶けだし、氷河湖が決壊して大洪水をもたらすのも心配だが、砂漠化が進むのも気になりだしたら、とまらない。牧草地がなくなり、ヤクも羊もキャン(野生のロバ)も生きていけなくなるだろう。もちろん、「そんなことより自分の心配してろ」と言われてしまいそうだが。