人の体にはなぜ毛が生えていないのか
むかし、この世界にまだ人がいなかった頃、うっそうと茂った原始の森にはたくさんの野生の動物が住んでいました。そのなかに黒頭という名の動物がいましたが、ほかの動物とおなじように毎日、森の中で食べ物を探していました。
ある日、虎、ライオン、熊、ツキノワグマがいっしょにいたとき、天から神が降りてきました。神はいわゆる「知識」と呼ばれるひとかたまりの肉を手に持ち、言いました。
「おまえたち獣は毎日たべものを探して過ごしている。それはおまえたちのだれも知識をもっていないからだ。このままではこれからも生活がよくなることはないだろう。もし知識の肉をすこしずつなめたら、生活はかならずよくなるはずだ。これをみなに分けるので、もらったらすこしずつなめるといい」
話し終えると、この神は天高く舞い上がっていきました。神がいなくなると、獣たちは集まり、知識の肉をどのように分配するか話し合いました。そして日ごろの順位にしたがって肉をなめることにしました。
みなが肉をなめるために列をつくりました。そのとき黒頭の動物の姿だけがありませんでした。だれが黒頭を呼びに行くべきかが問題になりました。虎は熊に譲り、熊は猿に譲り、猿はウサギに譲りました。ウサギは言いました。
「もしぼくが黒頭を呼びに行くとしたら、そのあいだに知識の肉なめは二回りくらいしてしまっているでしょう。それなら行く前にひとなめしていきたいと思うのですが、どうでしょう」
全員が同意したので、ウサギは肉をひとなめしました。これですこしだけ知識を得たので、ウサギは喜んで出発しました。
黒頭のところへ向かいながら、考えました。日頃から黒頭をのぞく動物たちはみな自分と比べて力があり、いつもだまそうとするのです。今日は知識の肉を黒頭に食べさせる方法を考えることにしました。
ウサギは長い時間走って、ようやく黒頭と出会いました。ウサギは言いました。
「今日、神がぼくたちのところにやってきて、動物みんなに知識の肉を授けるとおっしゃいました。あなたをのぞく動物全員が肉の一部を食べました。いま、あなたの分だけ肉はあまっているのです。彼らが言うには、もしあなたが食べないのなら、あなたの分も食べようと話し合っているのです」
黒頭はそう聞くと、ウサギに礼を述べて、さっそく肉のところまで戻ってきました。そのとき動物たちは知識の肉を取り囲み、まさに自分たちの分を食べようとしているところでした。そこへ黒頭がいきなりあらわれて、みんなの分を食べてしまったのです。
ほかの動物たちはあきれてものも言えません。みな怒り狂って、黒頭を殺してその肉を食ってしまおうと考えたのです。しかしこの肉を食べた黒頭は知識をたくさん得ていたのです。黒頭は言いました。
「知識の肉はすでに私の体の一部になりました。みなさんがすでに食べたのかどうかは知りませんでした。あなたがたが私を殺して、私の肉を食べたところで、神が与えた知識の肉が作用するかどうかは保証できません。ですから、もし私を罰するなら、別の方法を考えてください」
それを聞いた動物たちは「それなら毛をむしりとっちゃえ!」と叫びました。そして彼らは黒頭の毛をむしりはじめたのです。黒頭は、座り込んで両手で頭をかかえこみました。それで頭にだけ毛が残ったのです。また黒頭は知識の肉を食べたので、人間に変身することができたのです。