ヤルツァンポ河はなぜ急に曲がっているのか 

 伝説によりますと、カンリンポチェ(カイラース山)の麓に4人の子供がいました。上の兄がヤルツァンポ川(ヤルルン・ツァンポ、ブラマプトラ川)、二男が獅泉川(センゲ・ツァンポ、インダス川)、三男が象泉川(ランチェン・ツァンポ、サトレジ川)で、妹が孔雀川(マチャ・ツァンポ、カルナリ川)でした。

 ある日、白髪の父が子供たちを近くに呼び寄せて言いました。

「おまえたちもすっかり大きくなったな! いよいよ世間に出ていくときがやってきた。各自道を選んで、世界中を旅するがいい」

 子供4人は父に別れを告げると、喜び勇んで出発し、4つの道をたどっていきました。かれらは大海で再会し、いっしょに雲に乗って帰ってくることを約束しました。

 獅泉川は西へ、象泉川は北へ、孔雀川は南へ向かいました。長男ヤルツァンポ川は一路東へ向かいました。真っ赤な太陽がそちらから上ってくるからです。彼はいくつもの大小の雪山を越え、無数の大小の峡谷を渡り、ついにコンポ地区に到達しました。両岸にはうっそうとした森があり、色鮮やかな花々が咲き誇っていました。そして白玉のようなナムチャク・バルワ峰とチャラ・ツェトン峰が見えると、うれしくなって思わず歌をうたってしまいました。

 このとき黒光りしたハイタカが水を飲むためにやってきたので、ヤルツァンポはこの鳥にききました。

「やあ、ハイタカ君、きみはどこから来たんだい?」

 ハイタカは首を傾けながらこたえました。

「ぼくはひろーい海からやってきたのさ」

「へえ、それなら君、ぼくの弟の獅泉川や象泉川は見なかったかい? 妹の孔雀川はどうだい?」

 じつはハイタカは海を見たこともありませんでした。弟や妹と会ったことなどありません。そこであわてて言いつくろいました。

「かれらはとっくに海に達してたよ。はやく行かなければ、みんな家に戻ってしまうかもしれないよ」

 ヤルツァンポはそう聞いて、突然心がさわぎ、落ち着かなくなり、水面には波が立ってきました。彼は急いで曲がり、海のある南のほうへ急いだのです。そこには大きな岩があったのですが、一刻の猶予もないので、ぶつかっていきました。さらには深い峡谷がありましたが、そこにも動ぜずに入っていきました。彼はぴょんと跳んでは叫びました。

「弟たちよ、妹よ、すぐ追いつくから待っていてくれ!」

 現在、メトク(墨脱)地方で川が急に曲がっているのは、このようにヤルツァンポがあわてて南に向かったからなのです。

 しかしヤルツァンポが海に達したとき、弟や妹の姿はどこにも見えませんでした。かれはとても後悔しました。なぜなら太陽が昇る地方に行くことができなかったからです。このとき以来彼はいい加減なことを言ったハイタカをうらみました。それでハイタカが自分の水を飲むことを許さなくなりました。

 それでいまにいたるまで、ハイタカは川面まで降りることができなくて、空中にとどまってクルクル回り、叫ぶのです。

「トゥン(飲む)トゥン(飲む)、水飲みたいよお」

 老人たちはいいます。これはいい加減なことを言った当然の報いであると。