家畜の馬と野性の馬はどのように分かれたか 

 ずっと昔、天界の九重天のあいだ、雲と霧のなか、星宿の下にガータ・イェルワという名の雄馬がいました。そしてサンタ・ドルマとのあいだにタサロン・チャンキチェ・マロンが生まれました。

 

神馬は天上に住む 

神馬の子は空中に住む 

ここに十分な草はなく 

神馬は天上から降りてきた 

神馬の子は空中から降りてきた 

 

 メスの子馬はラユル・ゴンタンに降臨すると、自ら願ってラサ・ゴンマ尊(パクモドゥパ朝の王ゴンマ・ダクパ・ギェルツェン)の所有物となりました。ラサ・ゴンマ尊はその子馬を土屋のなかに入れ、青苗を食べさせ、豆の麺をすすらせ、甘い水を飲ませました。

 

子馬タサロン・チャンキチェ・マロンは

気性が荒く 

せっかちなところがある 

昼間放牧するべきとき、子馬を放たないとは 

夜間柱につなぐべきとき、子馬をつながないとは 

 

ラサ・ゴンマ尊は怒って子馬をののしり、土屋から外に追い出しました。

子馬はつぎにキードンのダムパ地方に降臨しました。そこで馬の王チャチュと会い、結婚し、子馬三兄弟が生まれました。三兄弟の長男はイキ・タンジャン、二男はジャンロン・ウォタ、三男はクロン・マンタといいました。

この地方には、十分な草も、十分な水もありませんでした。そこで長男はギャンカル・ナムギェル地方へ行きました。そこには十分な水があり、十分な草がありました。二男はティダク・ギェルゴン地方へ行きました。そこには十分な水があり、十分な草がありました。三男はドキ・ダンソン地方へ行きました。そこには草が生い茂り、清冽な泉の水が湧いていました。 

しばらくのち、ギャンカル・ナムギェル地方で長男は野生のヤクのガワと出くわしました。ヤクは長男に言いました。

「何年も、天空の上、すなわち虚空の上の天父六君が卦(パルカ)の規定にしたがって祖神を保護しています。馬が生活するのにいいのはド、ヤクが生活するのにいいのはチャンといいます。あなたも本来の場所に行くべきです」

 長男はこたえて言いました。

「祖神を守る天父六君がいう卦によりますと、馬が生活するのにいいのはドで、ヤクが生活するのにいいのはチャンというのは、たしかにそのとおりです。いまからのち、馬とヤクは争わないようにします」

 

子馬が草を食べるとき 

ヤクは水を飲む 

ヤクが草を食べるとき 

子馬は水を飲む 

 

 オスの野生ヤクのガワは同意しませんでした。その頭を傾け、右側の角を立て、左側の角を下げ、つついてきました。長男は飛ばされて、死んでしまいました。

 

肉は鳥についばまれ、ぐちゃぐちゃになり 

血は大地にふりまかれ、ブクブクと音をたてています 

骨は犬にかじられ、ボリボリという音が聞こえます 

毛髪は風に吹かれて、ボサボサになりました 

 

 長男はこのように野生のヤクにつつかれて死んだのです。

 しばらくして、二男と三男の馬は、ヒヒーンと鳴いて兄がこたえてくれるのを待ちましたが、音はしませんでした。二男と三男はギャンカル・ナムギェル地方に行って兄の姿を探しましたが、見当たりません。そしてついに、変わり果てた兄の姿を見つけたのです。三男は言いました。

 

兄の仇(かたき)を弟がうたないのは 

後ろ首の仇を喉がうたないようなもの 

仇の心臓をとらないのは 

肉親の仇をうたないのとおなじ 

仇をうたないわけにはいかない 

もし敵の血を飲まないなら 

もし後ろ首の仇をうたないなら 

喉が渇いて死ぬとき後悔しないだろうか 

兄の仇を弟がうつのは当然のこと 

兄の仇をふたりの弟がうつのは必要なこと 

仇の心臓をさくべし 

野生のヤク、ガワの心臓をさくべし 

肉親の仇をうつべし 

兄の仇をうつべし 

 

ついで二男が言いました。

 

兄はだれよりも速く 

その能力はずばぬけていた 

けれどヤクのガワにはかなわない 

われら弟ふたりではなにもできない 

追っかけても追いつかない 

逃げても逃げ切れない 

戦ってもかなわない 

兄の仇を弟はうてない 

敵の血を弟は飲むことができない 

ドキ・ダンソン地方へ行くことができない 

そこには十分な草があり 

十分な水があるのだけれど 

 

 三男はそれにこたえて言いました。

 

だれよりも薄情で 

情けを知らないあさはかな者 

それはあんたのことだ、兄よ 

いまこのときから 

あんたは生きていくなら流浪の旅に出るがいい 

死ぬのなら八つ裂きになるがいい 

われは人が住むゲディン地方に行こう 

 

 すると兄(二男)は言いました。「弟よ、おまえは人の住むゲディン地方へ行こうというのか。人と親しくなるというのなら」

 

口に轡(くつわ)をはめるといい 

口のすみに傷跡ができるほど 

背中に鞍をのせるがいい 

背骨にできものができるほど 

おなかに腹帯を巻くといい 

内臓に傷ができるほど 

 

 それにたいし弟は言いました。「お兄さん、あなたはドキ・ダンソンへ行こうとしていますね、人を乗せないまま」

 

人のかわりに北斗七星を乗せているのでしょうか 

背中にできものができて、さぞ痛いことでしょう 

轡(くつわ)をはめる人はいないでしょうけど 

牧草があなたの口を傷つけるでしょう 

口には癒しがたい傷痕が残るでしょう 

あなたを使役しようという人はいないでしょうけど 

脚の速い猟犬に追われるかもしれません 

あなたを捕えようとする人はいないかもしれないけれど 

激しい風に打たれるかもしれません 

 

 このように、兄弟は二手に分かれたのです。二男はドキ・ダンソンに着きました。そこには草が十分にあり、水が十分にありました。

 弟(三男)ははるかに遠いゲディン・マユル地方に行きました。そこに灰色の土屋があり、なかにマルポ・ダンションという人がいました。弟は彼の前に行って言いました。

「いまこのときから、あなたは馬のわたしの世話をしてもらえますか。子馬のわたしですが、一人前として扱ってもらえますか。あなたにはわたしを助けるだけのやさしさがありますか。もし助けてくださるなら、これから百年、わたしはあなたの荷物を運んであげます。もしあなたが亡くなったら、葬送のことはまかせてください」

 人のマルポ・ダンションと馬のクロン・マンタは、ヤットコのように立ち、誓いを立てました。彼らは親指をたてて誓うと、人は馬に乗り、死んだときには葬送をおこなうと約束しました。

 この誓いのあと、馬と野性の馬は分化したのです。

 人のマルポ・ダンションは馬クロン・マンタに乗り、虎皮豹皮を用いた矢筒を腰にさし、錫の鐙(あぶみ)を馬の腹に巻き、ティダク・ギェルゴンへと走っていきました。

 弟クロン・マンタは言いました。

 

兄さんは恥ずかしそうだ 

ジャンロン・ウォタは恥じらっている 

それなら顔を布で覆うといい 

顔に覆いをかけるといい 

 

 人のマルポ・ダンションは馬の顔を布で覆い、馬の顔に覆いをかけ、ギャンカル・ナムギェル地方にやってくると、野生ヤクのガワと会いました。人は馬を鞭でたたいて「行け!」と命じ、ヤクの前まで走らせました。

 

前のほうを逃げていくのはどこのだれかな 

おや逃げ足が速いのは野ヤクのガワではないか 

後ろから追ってくるのはどこのだれかな 

それは弟クロン・マンタだ 

 

 馬上の人マルポ・ダンションは弓を引くと、野生ヤクのガワに向かって矢を放ちました。

 

矢が右から射抜くと 

内臓は左から出ます 

矢が左から射抜くと 

内臓は右から出ます 

 

 このようにして、射抜かれた野生ヤクのガワはそこに倒れて死んでしまいました。

 弟クロン・マンタは言いました。

 

お兄さんの仇はとった 

兄イキ・タンジャンの仇をとった 

仇の心臓を射止めた 

仇の野生ヤク、ガワの心臓を射止めた 

兄の仇を弟がとった 

敵の血を飲み干した 

首の後ろの仇をのどがとった 

ヤクの肉をたたき切った 

ヤクの皮を切り刻んだ 

ヤクの尾をわがたてがみの上に掛けた 

われは兄のことを誇りに思う 

ジャンロン・ウォタはわが誇りである 

 

 人のマルポ・ダンションはヤクの肉をたたき切り、ヤクの皮を切り、ヤクの尾を馬のたてがみの上に掛けました。仇の心臓をとって、近しい者の仇をうったのです。彼らはゲディン・マユル地方へもどっていきました。

 それからかなりの時間がたちました。天から病魔が降りてきて、人のマルポ・ダンションにまとわりつき、炊煙がとだえると、地上には悪霊が跋扈(ばっこ)しました。

 

銀河は雲により隔てられた 

主人は突然死んでしまった 

美しい玉は砕け散った 

主人は死んだ 

美しい玉は上から落ちて砕け散った 

主人は突然死んでしまった 

 

 馬は悲しみにくれました。馬はギェゴル地方にやってきて、ボン教祖師シェンラブ・ミウォとシャーマンのマデワと会いました。死者のための供え物をそろえ、また死者を座布団の上に安置しました。供え物からいいものを選ぶと、それとともに土の下に遺体を埋めました。

 

弟クロン・マンタは 

信義の篤い人のために誠心誠意、尽くします 

身を尽くして助けます 

主人の魂を高みに送ります 

主人の恩情にこたえます 

主人と苦楽をともにしたことを思います 

義気を重視し 

より高みに送ります