チベットとペルシア 宮本神酒男 訳
第1章 ボン教古代伝説とゾロアスター教の影響
1 チベット人の古代神話
チベット人の古代神話は雑然としているが、内容は豊富である。われわれはそれを三つに分類することができる。
A:上古民間神話
B:ボン教古代神話
C:仏教古代神話
これらの間には密接な関係がある。総じていえば上古民間神話がもっとも古く、世界形成や洪水、猿変人神話など素朴なものが多い。ついでボン教古代神話、仏教古代神話の順となっている。
これらはつねに形成と発展を繰り返してきた。互いに吸収したり、影響を与え合ったりした。ボン教が上古民間神話を吸収し、改変しておのれのものとすれば、仏教は古代民間神話を吸収、改変するだけでなく、ボン教神話も吸収、改変し、おのれの古代神話を形成してきた。そのもととなる神話があっても、三者三様の文化価値があったのだ。価値ということでいえば、上古民間神話がもっとも価値があり、ボン教古代神話、仏教古代神話という順になるだろう。
神話には歴史の真実の部分が含まれるものである。しかしそれを実際の歴史と照合するのはそんなに簡単なことではない。神話の属性を考慮し、そのあとで付加された部分を除去してその本来の姿をあぶりだし、チベットの古代史研究のあたらしい境地を開拓していきたい。
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