孤高の城 

 ヨーロッパの古いお城に行ってきました、と言われても一瞬信じてしまいそうな雰囲気をもっているのがラダックのスタクナ寺院です。でもよく見ると、霊的パワーをもった岩の丘の上に立っていて、その孤高の美しさはまぎれもないチベット仏教の寺です。この写真の風景が凛としているのは、真冬だからです。空気までもが凍っているのです。花咲いたような赤い木々は、枯れ木です。そのあいまを縫うように流れる川はシンゲ・カバブ川、すなわちインダス川上流です。別の写真を見ればよくわかるのですが、真冬のインダス川は碧玉の水に氷の塊がまじり、おどろくほど澄んできれいです。(⇒冬のインダス川の画像

 スタクナはつづりで書けば「Stag sna」で、虎の鼻という意味になります。丘がジャンプする虎に似ていて、その虎の鼻のような頂上に寺が建てられたことからこの名前ができました。しかしこの寺院はドゥク派に属し、ドゥク派が虎(スタク、タク)という言葉を寺の名前に用いたがることを考えると、むしろ教派を示す名前といえます。

 スタクナ寺院は1580年頃、ラダックの法王ジャムヤン・ナムギャルがブータンから高僧チュージェ・ジャムヤン・パルカルを招いたときに建立し、寄進したものです。寺が建てられてから400年以上の年月がたちますが、おそらくもともとは特別な力をもつ聖なる場所として古代人に崇められていたのではないでしょうか。

 その証拠に、丘の周辺には岩絵がたくさん残っています。これらはあきらかに仏教寺院が建てられるよりずっと前のものです。彼らにとっては、岩の丘自体が聖地だったので、その上に何かを建てるのは神への冒涜だったかもしれません。 

 もう一枚の写真は、夏、向こう側から見たスタクナ寺院です。小高くなったマトゥ寺院が立つ丘から、そよ風を頬に受けながら、草地を抜け、スタクナ寺院まで歩いたとき、これ以上ない喜びを感じました。

 

 なぜかあまり注目されていませんが、スタクナ寺院の壁画や彫像はなかなか充実しています。空飛ぶお坊さんが多いのも私好みです。この気持ちよさそうに飛んでいるのは、ナナム・イェシェデというお坊さんです。覚醒する(悟りを開く)とはどんなにすばらしいことなのだろうかと、この絵を見ながらつくづく感じます。



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