ロヒンギャ迫害が深刻化 人権団体、動かぬスー・チー氏を批判 
                                        (東京新聞2016年12月5日) 

 ミャンマーで暮らすイスラム教徒の少数民族ロヒンギャに対する迫害が深刻化している。国連の推計では10月以降、3万人が家を追われ、少なくとも1万人が隣国バングラデシュに脱出。その大半は同国南東部の町テクナフの難民キャンプに身を寄せる。アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が率いるミャンマー政府の対応は鈍く、人権団体や近隣国は批判を強めている。 (バンコク・大橋洋一郎)

AFP通信によると、発端は西部ラカイン州で十月九日、警官の詰め所が武装集団に襲われ、警官九人が殺害された事件という。国軍と警察はロヒンギャ武装組織の犯行とみて、州内で掃討作戦を続けている。

 これまでにロヒンギャ七十人以上が死亡し、四百カ所以上の住居が破壊されたとされる。バングラデシュに逃れた避難民は「兵士が民間人の殺人や性的暴行を繰り返し、家を燃やした」と訴えるが、国軍は否定している。

 ミャンマー政府は十二月一日にようやく調査委員会を設置。しかし、委員長に国軍出身のミン・スエ副大統領が就いたため、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは「独立、公平な機関と言えない」と指摘。スー・チー氏を「国軍をコントロールできていない」と批判した。

 近隣国のイスラム教徒も怒りの声を上げ、十一月以降、バングラデシュ、マレーシア、インドネシアで抗議デモが起きている。マレーシア外務省は声明で「特定の民族を排斥するのは、明らかに民族浄化だ」と厳しく非難した。

 ロヒンギャは自らラカイン州土着の民族と主張するが、政府はバングラデシュからの不法移民とみなし、国民の九割を占める仏教徒は政府を支持。これまでも居住制限など迫害が続き、一部がボートでベンガル湾を漂流したり、人身売買の犠牲になった事件も明らかになっている。

 スー・チー氏は昨秋の総選挙でロヒンギャに関して口を閉ざし、多数派の仏教徒の支持を失いたくないからだと批判された。新政権発足後、ロヒンギャ問題のアドバイザーにアナン前国連事務総長を迎えているが、解決の糸口は見えていない。