アク・トンパ物語 

トンパおじさん、尼になる 

 

 トンパおじさんの顔の肌は、とてもなめらかだったので、女性といっても通りそうでした。そんなおじさんは長い間、尼寺で若い処女の尼さんとナニをいたしてみたいと考えてきました。

 それでおじさんは国中を旅して、適当な尼寺はないものかと探しまわったのです。最終的に何百人もの尼さんを擁する大きな尼寺を見つけました。さっそくおじさんは尼さんの衣装を着て、住持(尼僧院長)に会いに行きました。住持はこの来たばかりの尼僧を尼寺のなかに入れました。

 おじさんはこの尼寺に数か月間いました。その頃突然、多くの尼さんが妊娠してしまったのです。とくに夜間、男が近づかないように厳重に注意したにもかかわらず。厳格に出入りが制限されていたのに、その後も妊娠する尼さんは増える一方でした。教師や尼寺の偉い尼さんたちは夜、男が忍び込んでくるのではないかと目を光らせました。しかしだれも見つけることができなかったのです。

 偉い尼さんたちは、尼僧のなかに男が混じっているにちがいないと考えるようになりました。しかしその男を見つけるのはたいへん困難でした。というのもあまりに数が多くて、すべての下半身をチェックするのは容易ではなかったのです。

 そこで偉い尼さんたちは二つの分厚い壁を平行に建てました。尼さんには壁から壁にジャンプしてもらいます。偉い尼さんたちが下から見上げて、尼さんのなかに、おちんちんを持っていないかどうかたしかめるという寸法です。これで妊娠させたのがだれかわかるはずです。

 トンパおじさんは検査を逃れることができそうになかったので、奥の手を使うことにしました。ちんちんを後ろに押し込んで、足と足の間にはさみ、出てこないように腰のベルトに糸で結んだのです。このようにしてトンパおじさんはジャンプする尼さんの列に加わりました。

 おじさんの番がきました。壁から壁にジャンプしたのですが、ほかの尼さんと比べてとくに変わったところはありませんでした。こうして全員がジャンプを終えました。しかしあいかわらず犯人を見つけ出すことはできません。

 そこでもう一度尼さんたちにジャンプさせることにしました。しかし今度は、おじさんのおちんちんを結んでいた糸がゆるみ、それがダラリと下がってしまいました。偉い尼さんたちは突如ちんちんを見てしまったのです。

 おじさんは捕まってしまいました。若い尼さんたちを妊娠させていたのはこの男だったのです。

 彼女らはおじさんを縛り上げ、すべての衣服をはぎとり、さらしものにしながら、尼寺中を練り歩きました。尼さんを妊娠させたのがだれであるか、皆の知るところとなりました。それから彼女らは、おじさんを暗い部屋に閉じ込めました。腕や足を太い柱にくくりつけ、食事もやりませんでした。これが彼女らがもっとも重いと考えた拷問だったのです。

 のち、トンパおじさんがひとりごとを言っていると、偉い尼さんたちは聞き耳をそばだてました。聞かれていることを知っていたので、おじさんは何度もおなじことをつぶやきました。

「ああ、なんとありがたい神様であることか。こうして縛られていると、なんと気持ちのいいことか。だがもしバターがたっぷりしみこんだ湿った牛皮のひもで手足を縛られたら、こんなにおぞましい拷問もないだろう」

 扉の後ろに隠れていた年配の尼さんたちは考えました。

「いまつぶやいていた拷問はよっぽど痛くてつらいみたいね」

 彼女らはバターが塗られた湿った牛皮のひもを持ってきて、それでトンパおじさんの手足を縛りました。

 牛皮にはしっかりとバターが塗られていたので、当然のことながら滑りやすくなりました。また水分のせいで伸びていたのです。翌朝、おじさんは縛っていた縄から逃げ出すことができました。素っ裸のまま窓からジャンプし、走って逃げました。

 坂道を下っていくと、おじさんは馬に乗った男と出会いました。馬には二つの袋が下がっていて、それらは食べ物でいっぱいでした。トンパおじさんは尋ねました。

「おや、どちらにおいでですか」

「尼寺の妹に会いに行くところです」

「尼寺の新しい規則をご存知ですか? 裸でないと寺の中に入れないのですよ。ほら、私を見てください。尼寺に行ってきたので、こうして裸なのです」

 おじさんの話を聞いたこのあわれな男は、合点がいった風でした。

「なるほど、だから裸なのですね」

 男はおじさんにたずねました。

「じゃあ私の馬と持ち物を見ていてもらえますか?」

「もちろん」とおじさん。「でも長い時間は無理ですよ」

 男は服を脱ぎ、尼寺のほうへ歩いていきました。

 尼寺の中に入るなり、すべての部屋から「尼僧兵」が飛び出してきて、男に飛びかかり、ボコボコに殴りつけました。彼とおじさんを見間違えた者もあれば、この男は尼さんを侮辱しようとしていると考える者もいました。ようやく尼さんたちは手を休めました。そしてなぜ裸で尼寺にやってきたのかと男にたずねました。彼はいましがた裸の男と出会ったこと、そして新しい規則ができたと聞いたことなどを話しました。

 尼さんたちはあわててトンパおじさんが縛られているはずの部屋に入りました。姿も形もありませんでした。彼女らはこの男に尼僧の服を着せました。なぜなら女物以外持っていなかったからです。それから急いで彼女らは男とトンパおじさんが出会った場所に駆けていきました。まだおじさんがいるかもしれないと考えたのです。しかしおじさんの姿も男の持ち物も消えていました。

 何か月かが過ぎました。ある日、たまたまですが、男はラサでトンパおじさんを見かけました。男を見かけるなり、おじさんは巨大なポールに飛び乗り、しがみつきました。このポールはラサ市内の真ん中に立つ宗教的なのぼりです。おじさんはポールの先をじっと見ています。男はおじさんに近寄り、叫びました。

「このウソつき野郎め! おまえは泥棒だ! 馬と持ち物すべてを盗んだとんでもないやつだ!」

 トンパおじさんはポールの先を見つめながら言いました。

「ああ、私も馬と持ち物を返そうと思ってずっとあなたを探していたんですよ。でもチベット政府は私をのぼり監視係に指名したのです。このポールが倒れないかと見張っていないといけなかったのです。ですから時間がなかったのです」

「そういうことですか。じゃあ私が監視係の仕事を手伝いますから、私の馬と持ち物を持ってきてください」

「わかりました。でも注意してください。ポールが倒れてきたら叫んでください。それが重要な仕事なのです」

 男はそうすると答えました。彼は11階分の高さがあるポールに飛びつきました。おじさんはその場を去りました。

 男は必死にしがみつきました。澄み切った青空にはたくさんの雲が飛んでいます。空を見ているうちに、ポールが倒れているように錯覚してしまいました。彼は何度も叫びました。

「ラサのみなさん、大変です! ポールが倒れてきます!」

 だれもが彼のほうを見ました。彼は群衆のど真ん中にいました。だれもが心の中で考えました。

「なんて不吉な叫び声を発していることだろう。われわれの平穏をかき乱したうえ、聖なる柱を侮辱しておる」

 群衆が集まってきて、みなが彼を存分に殴りました。そのあと警察がやってきて、平和をかき乱し、反乱をくわだてたとして、男を逮捕したのです。