アク・トンパ物語 

牛を塗る 

 

 ある日トンパおじさんが田んぼの中の道を歩いていると、田を耕している男がいました。犂(すき)は2頭の牛に引っ張られていました。その一頭は黒い牛で、もう一頭は白と黒が斑(ぶち)の牛です。おじさんは男のすぐ近くに腰かけて、話しかけました。

「やあこんにちは。ずいぶんと健康そうな牛を持っておられますなあ。でも残念なことに組み合わせが悪いですなあ」

「ほう、そうかね」

「だってひとつが黒くて、ひとつが斑(ぶち)でしょ」

「そんなの気にするほどでもないだろ」

「いやこれはたいへんな問題ですよ。だから斑(ぶち)の牛を黒くしたほうがいいですよ」

「それならあんた、わしのために斑(ぶち)を黒くしてくれるんかね」

「ええ、ええ。もちろんやってさしあげますよ。しかもチャン(酒)一杯いただければ謝礼は十分ですよ」

 男は同意しました。で、おじさんはまず斑(ぶち)の牛を犂(すき)に結び付けていたヒモを解きました。そしておじさんは黒い土を持ってきて、牛の体全体に塗り込めはじめました。斑の白い部分はこうして黒土で覆われました。いまや斑の牛は黒い牛のように見えました。おじさんはこの牛を返しながら言いました。

「三日たったらこの牛を洗ってください。そしたら斑だったところが全部黒になっていますから」

 男は元のように田を耕しながら言いました。

「あんた、うちに来てチャンを飲んでいきなされ」

 おじさんは田んぼから遠くない男の家に行きました。

 おじさんは男の妻と会うと言いました。

「いまちょうどあんたの亭主に黒い牛を売ったところです。亭主はあんたから代金をもらってくれと言ってます。もし信用できないというのなら、窓から外を見て確認してください」

 彼女が窓から田んぼを見ると、たしかに黒い牛が2頭いて、犂を引っ張っています。それで男の妻はおじさんに代金を渡しました。おじさんはお金を持って立ち去りました。