アク・トンパ物語
岩を動かそうと試みる
昔、肥沃な土地を持った裕福な農民がいました。彼の田んぼの真ん中には大きな岩があり、だれにも動かすことができませんでした。
一方、トンパおじさんは食料が尽きてきたので、どうにか金持ちの地主をだませないものだろうかと思案していました。おじさんはこのあたりを歩いていたとき、この岩を見つけました。おじさんは地主のところに行って言いました。
「あなたさまの田んぼのなかにある岩をどうしてどけないのですか」
金持ち男はこたえました。
「そうしたいが、できないんだよ」
「じゃあわたくしがどけてさしあげましょう」
「できる? ほんとうにできるのか?」男は驚きました。
「ええ、できますとも! でもあなたさまは岩をわたくしの背中にのせるために、20人の人を雇わねばなりません。それに十分に長い縄が必要です」
金持ち男はそれだけのものを用意すると約束しました。そして翌日、男はおじさんを呼びました。20人の人と長い縄は用意されていました。
おじさんは朝食を食べ、しばらくこの地主と雑談をかわしました。
昼時になると、おじさんは男に言いました。
「昼ごはんは作っていただけないのですか。作っていただければ、晩ご飯まで食事のために家に戻る必要がなくなります」
おじさんは昼ごはんをいただきました。
おじさんのおしゃべりはとまらず、午後のお茶の時間になりました。おじさんは言いました。
「どうしてお茶を出していただけないのですか。そうしていただければ、お茶を飲みに家に戻る必要がなくなります」
ふたたびおじさんは地主や家族とおしゃべりをはじめました。そして夕ご飯の時間になりました。おじさんは、どうして夕ご飯を作っていただけないのかとたずねました。おじさんは夕ご飯をいただきました。
それからおじさんは言いました。
「どうして今日の駄賃をいただけないのでしょうか。そうしていただけたら、あとであなたさまのところに戻ってきて、煩わすこともないのですが」
地主と家族はおじさんが言っていることがもっともだと思い、一日分の報酬をおじさんにあげました。
外はかなり暗くなってきました。おじさんは立ち上がり、縄を持ってきてもらい、20人の男たちといっしょに田んぼに向かいました。田んぼに着くと、おじさんは岩のまわりに縄を巻きました。おじさんは縄の両端を持ったまま、背中を岩にくっつけ、20人の男たちに岩を押しておじさんの背中にのせるよう頼みました。
おじさんは大声で言いました。
「そうそう、押して、押して!」
男たちは何度も押して岩をおじさんの背中にのせようとしましたが、背中にのせるどころか、岩を1ミリすら動かすことができませんでした。
おじさんは叫びました。「もう一度押して!」
しかしやはり岩は微動もしませんでした。
おじさんは地主に言いました。
「今日来た若者たちは、かよわすぎます。もしわたくしの背中にのせてもらえたら、運ぶことができるのですが。この若者たちでは、どうにもなりませんな」
そう言うと、おじさんは家に帰ってしまいました。