アク・トンパ物語 

お金持ちから鍋を借りる 

 

 またしてもトンパおじさんはお金持ちの人たちをだましたいと思いました。ある日おじさんは大きな銅の鍋を借りるため、けちくさくて悪名高いお金持ちの家に行きました。銅の鍋はチベットでは価値あるものとされていたのです。

「このけちくさい男、トンパおじさんに対してはやけに親切だな!」おじさんが大きな銅の鍋を持って家から出てくるのを見た隣人はそう言いました。

 しばらくしてトンパおじさんはこの金持ちの家に戻ってきました。部屋に入ってくるなり彼は言いました。

「おめでとうございます! おめでとうございます! ああ、あなたさまはなんて運がいいのでしょうか!」

「どういうことだ?」お金持ちはたずねます。

「あなたさまの大きな鍋が豪華な小さな息子さんを産んだのです! 吉報だとは思われませんか?」

「なにたわごとを言ってるんだ! 鍋が子供を産むわけがないだろう」お金持ちは食ってかかりました。

おじさんは小さな鍋をもってきていました。布に包まれたちっぽけな鍋は、形が借りた大きな鍋とそっくりでした。おじさんは布を開け、小さな鍋をお金持ちに見せました。

「もし信じないというなら、これを見てください! これをあなたさまは何と呼びますか?」おじさんはなんだか楽しそうです。

 おじさんがどんなにまじめな顔をしても、お金持ちは信じようとしませんでした。彼はひとりごとをつぶやきました。

「おじさんが愚か者なら、それを利用しないのはばかげたことだ」彼は自分の鍋に子供ができたのがうれしくてたまらないかのようにふるまいました。そして言いました。

「このすばらしい慶事を祝ってくれてどうもありがとう。ところでこの息子のお母さんは元気かね」

 おじさんは小さな銅の鍋をお金持ちの手に渡しながら、生まれた子供はなんと美しいことでしょう、と言いました。

「この小さい息子さんはお母さんそっくりだと思いませんか」おじさんはニコニコしながら言いました。

「まあ、そうだ」お金持ちは同意しました。

 それからおじさんはいとまごいをしました。お金持ちは言いました。

「これからは母親、つまりわが巨大な銅の鍋を大事にしてくれたまえ。将来はこんな立派な息子がもっとできますように」

 数日後、おじさんはお金持ちの家にふたたびやってきました。おじさんは目に涙をいっぱい浮かべながら、悲しそうに言いました

「とても悲しいことが起きてしまいました」。

「何があったんだね?」お金持ちはびっくりしていました。

「あなたさまの大きな銅の鍋が死んでしまったのです」

 お金持ちは叫びました。「たわごとだ! 鍋がどうやったら死ぬんだ!」

 おじさんは答えました。「大きな鍋が子供を産むんです。それなら死んでもおかしくないんじゃないですか」

 鍋をおじさんに預けたのがそもそもよくなかったと彼が感じるのは、自然な流れでした。彼は言いました。

「まあ、ともかく、わが鍋は死んだんだな。じゃあ、その遺体をわたしのところに戻してもらえるかな」

「残念です! もう火葬にしてしまいました」

「どこで火葬したんだね」唸りながら彼は言いました。

「鍛冶屋の炉です」という答えが返ってきました。

 お金持ちはだまされたことに気づき、叔父さんに対していかりまくりました。

「おまえは泥棒だ! わしの大鍋を盗みやがった!」彼は大声で叫びました。

 おじさんも叫び返しました。

「あんたこそわが小鍋を盗んだ泥棒だ!」

 彼らは口喧嘩をはじめました。何が起きたのだろうと近所の人々はみな身にやってきました。しかしお金持ちは悪評が立つのを恐れて、鍋に関して言い合いをするのをやめました。そして家の中に戻り、扉をぴしゃりと閉めました。