アク・トンパ物語 17
国王の従者として旅をする
遠く離れた地の国王は、会議に出席するため、都のラサへ行かなくてはならなくなりました。言うまでもなく、高位の人物はひとり旅などするわけもありませんから、国王はトンパおじさんを従者として連れていくことにしました。国王は馬に乗って旅をするのですが、トンパおじさんは寝具や途中で料理を作るための鍋など重い荷物を持って、歩かねばなりませんでした。国王はまたとてもけち臭い性格の持ち主でした。食べ物の大半を国王が食べて、残飯をおじさんが食べました。
ラサに到着したあとも、国王のおじさんに対する扱いはひどいものでした。会議に出席する日の朝、出発する前、国王はチベットの主食であるツァンパ(麦焦がし)をひとつのつぼに入れ、いくつかのゆで卵をもうひとつのつぼに入れました。ツァンパが入ったつぼを指さしながら国王は言いました。「おまえはこのツァンパを食べるんじゃないぞ! 毒が入っているからな」。それからもうひとつのゆで卵が入っているつぼを指して言いました。「こっちのつぼも開けるんじゃないぞ。小鳥がいっぱいつまっているからな。開けたらみんな飛び去ってしまうだろう」。
トンパおじさんは国王のことをよく知っていました。国王はたんに最上の食べ物を自分のためにとっておきたかったのです。しかし何も知らないふりをしていました。国王が会議のために家を出ると、おじさんはさっそくツァンパと卵をたいらげました。おじさんは旅に出てはじめてまともな昼ご飯を食べることができました。
夜、国王は歩いてもどってきました。おじさんはといえば、恐怖におののいてふるえています。国王がツァンパのつぼと小鳥のつぼの両方を開けると、どちらもからでした。彼は怒りを抑えられず、怒鳴り散らしました。「いったい小鳥や毒入りツァンパはどこへ行ったんだ?」
おじさんはこたえました。「小鳥が騒がしかったので、新鮮な空気が必要だと考え、ふたを少しずらしました。そしたらみんな逃げてしまったんです。わたしはすごく落ち込んで、もう自殺するしかないと思いました。それで毒入りツァンパを食べたんです。ところが不幸なことに、死ねなかったんです」