アク・トンパ物語 (その他のエピソード1)
村の愚者
むかし村にひとりの愚か者が住んでいました。彼は自分が村でもっとも輝いていて、頭がよくて、ハンサムだと思って、町へ行きました。彼はだれもが自分を称賛してくれるだろうと考えていました。ある日彼はお金持ちのような身なりにドレスアップして、村を出ました。
町に着くと、一軒のお店に入りました。そこではあらゆる野菜を売っていました。彼は店内を見渡し、カボチャを見つけて、これは何だろうと考えました。考えたすえ、これは馬の卵に違いないという結論に至りました。そこで彼は店主に尋ねました。「やあ、これは馬の卵かい?」
店主は考えました。「なんてばかな奴だろう! 愚かな質問には愚かな答えを返そう!」そこで彼は答えました。「そうでございます。これは馬の卵です」
愚か者はさらに尋ねました。「で、いくらなんだい?」
店主は50銭と答えました。カボチャは通常1銭にすぎなかったのですが。愚か者は喜んで大金をはたいて<馬の卵>を買いました。
このあと彼は村に向かって戻っていきました。歩きながら彼は考えました。
「なんてラッキーだったんだ、町でこんな驚くべきものが買えるなんて! 家に帰ったら、馬の卵を温かい布にくるんで囲炉裏のそばに置いておこう。あそこなら温かいだろう。そのうち卵がかえるだろう。そうしたら仔馬が手に入ったということだ。仔馬が大きくなったらいい値段で売るとしよう。そしてもうけたお金でいくつかの馬の卵をあの店でまた買うとしよう。でもこのことはだれにも言わんほうがいいな。この馬の手の入れ方をみんな知ってしまうからな」
道すがらいろいろなプランを思い浮かべつつ村へ向かって歩いていると、村のすぐ近くに小さな池がありました。池のほとりには木が一本立っています。暑い一日だったので、彼は水浴びをすることにしました。彼は馬の卵を枝の間に置き、服を脱いで池に飛び込み、水浴びを楽しみました。
突然風が吹き、馬の卵が下に落ちて、地面に当たって砕けてしまいました。木の横ではたまたまウサギが寝ていました。カボチャが落ちてグシャッという音がしたので、ウサギは恐れおののいて走って逃げました。
愚か者は卵が落ちて割れ、ウサギが走り去るところを見ていました。しかし彼はそれを見て「卵から馬の赤ん坊が出てきた!」と思ったのです。彼は池から飛び出て、ウサギを追いました。服を着る時間はもちろんありませんでした。彼は追っかけつづけたのですが、なかなか捕まえることができません。ウサギの姿はどこにもありませんでした。
気落ちした愚か者はトボトボと歩いて家に帰り、妻に馬の卵の話をしました。妻は夫に負けないくらいの愚か者でした。彼女は夫に「どうして仔馬を捕まえて持って帰らなかったの?」と責めました。
この言葉が発せられた瞬間、ふたりの怒鳴りあいがはじまりました。愚か者は叫びます。「おまえがあんな小さな馬に乗ったら、背骨が折れてしまうだろ!」。彼らは大声でののしりあいました。驚いた近所の人たちがみなやってきて様子を眺めました。夫が彼らに馬の卵の話をしたところ、彼らは大笑いしました。馬が卵を産むなんて聞いたことがなかったからです。彼らが粉々になった馬の卵を見せろとせがむと、彼は村人を池まで連れていき、木の下で粉々になっているものを見せました。それは砕けたカボチャでした。
人々は愚かなふたりに起こった話を見聞きして、腹を抱えて笑いこけました。